ねこにまたたび 中



「…チクショ…ッは…なんであんな…いきなり…はぁ…」
どうやって走ったのか、いつの間にか大きな公園に辿り着いていた。新一は木陰に隠れて息を整える。全力疾走した後の呼吸は中々収まってくれない。

キッドから告げられた衝撃の言葉に動揺した新一は、驚きのあまり振り上げた黄金の右足が上手い具合に怪盗の腹に決まって、どうにか拘束から逃げ出すことが出来た。慌ててキッドから離れて、外の様子を伺う。中森警部はまだ駆けつける気配がなかった。
「なあ、何で逃げるんだよ!俺とヤろうぜ?」
ゆらりと立ち上がった怪盗に、本能的な危機を感じた新一は、気がついたときには走り出していたのだった。

「あーもー灰原のヤツ薬失敗してんじゃねえかよ…キッド捕まえるどころか俺追いかけられてるし。」
木にもたれてネクタイを緩め、ジャケットを脱ぎながら、薬の製作者への文句をつらつらと並べる。ちなみにこんなこと、本人を前にしては決して言えないセリフだったりする。
脱いだジャケットのポケットから携帯を取り出すと、新一は電話帳を開き、登録してある番号に電話をかけた。
「もしもし、中森警部ですか?工藤です。キッドを追ったのですが見失いました。すいません…ええ、次こそは捕まえてやりましょう。ところで奴を追っているうちに現場から離れてしまったので、今日はこのまま帰宅します。ええ、また明日警視庁のほうに伺いますので…はい、では失礼します。」
通話を終え、携帯を仕舞うと、新一は大きく溜息をついた。ようやく心臓も落ち着いてきたようだ。流れる汗はまだ止まる気配がなく気持ち悪いが、心臓と呼吸が楽になっただけでもありがたい。本音を言えば、木にもたれるなりその場に座るなりしたいが、薄いシャツ一枚で木にもたれると、木の皮が肌に刺さって痛いし、一旦座ってしまえばもう動けそうにない。それに一つの場所に長く留まるのは賢明とは言えないだろう。
新一はキッドに見つからないよう注意しながら、そっとその場を離れた。



「…見つけた。」

木陰に隠れながら気配を消して歩いている途中、背後から男の声がした。ああもう、ホラーもびっくりの恐怖だ。
新一はその場で硬直したまま動けない。ただその場に固まっていると、熱く火照った体が自身を後ろから包み込んだのを感じ、新一は寒さではない何かで震えた。
「なあ、名探偵…いや、新一、ヤろうぜ?」
「だから何トチ狂ったこと言ってやがる!正気に戻れバ怪盗!」
耳元に落とされた言葉にカッとなって、新一は振り向きざまにキッドの頭を思いっきり殴ってやった。
「俺はとっくに正気だし、コレは俺の本心だっつーの!」
ゴンッといい音がして、涙目になったキッドが抗議する。
「本心なら余計悪いわ!」
「アホか!ヤりたい気持ちのどこが悪いんだよ!俺らラッブラブな恋人同士じゃねえか!」
そうなのだ。
残念なことに、本当に残念なことに、一体何を間違えてしまったのか、新一は怪盗キッドと、いや、黒羽快斗と付き合っていたりするのだ。今日だって実は現場に来る直前まで、つまり予告時間の直前までラブラブなメールを送りあっていたし、その前日は夜といわず日中からそれこそ一日かけて、若者らしく性生活に勤しんだりもした。
けれどそれとこれとは違う。ここは大分離れたといっても、あくまで現場なのだ。
「だあああ! TPOを弁えろ!俺は今探偵で、テメーは怪盗だろうが!馴れ合ってんじゃねえ!」
ゼエゼエと肩で息をする新一に、キッドはニヤリと笑うと。
「…キッドじゃなかったらいいんだな?」
「…え?」
嫌な予感がとてもするのは気のせいであって欲しい。信じてもいない神にそう願ったのに。
キッドは魔法少女もびっくりの素早さで普段着に、黒羽快斗に戻ると、とてもいい笑顔で笑った。
「じゃーヤろうぜ!」



「ちょ、ま…て、ここ外…」
「大丈夫だって…ん、おいし…」
一応木に隠れてはいるが、遊歩道から少し入れば丸見えになってしまう芝生の上に連れてこられた新一は、嬉々としてボタンを外していく男に戸惑いの声を上げた。しかし、お前のその自信は一体どこから来るのかと問い詰めたくなるほど、周囲を気にしていない様子の快斗は、新一の首筋から胸元から、汗の浮かぶ肌を舐めていく。
あまり汗をかかない体質の新一だからか、珍しくじっとりと濡れた肌に快斗は酷く興奮しているのだろう。あごの下や脇など、普段はあまり触れない場所にまで丁寧に舌を這わせ、汗を舐め取っている。新一は慣れない部分への愛撫に身を捩って、けれど身体はしっかりと反応を返した。
キッドのマントを敷いてあるけれど、それでも布越しに刺さる芝がチクチク痛い。ぬめぬめの舌が這う感触と、チクチクする痛みに、徐々に新一の脳は溶かされていった。
もとより快斗の五感には全幅の信頼を置いている新一である。快斗が平気というなら、本当に平気なのだろう。快楽に溶けた思考は、屋外であることの不安を簡単に取り払ってしまった。
「ふっ…あ…」
性急な動きでズボンのボタンを外す快斗に、新一も腰を上げることで協力した。もはや肌を見せることへの羞恥など消え去った仲なのだ。新一の動きに戸惑いはない。
「かいとも…」
快斗のズボンの上から存在を主張しているそれを撫でると、ビクリと動いたのが布越しに伝わった。新一は熱に浮かされたまま、ボタンを外しファスナーを下ろすとそこに頬を摺り寄せ、快斗に挑発的な視線を送った。
「どこでンなこと覚えてくるんだ…」
脱力しきった声とは裏腹に快斗の目はギラつき、優しい愛撫は、急に激しいものへと変わった。流石に屋外ということもあり、全てを脱ぐわけにはいかないが、それでも肌蹴られたシャツの隙間から激しく丁寧に愛される。キモチイイ。
決して室内ではありえない虫の鳴き声だとか、冷たい夜の空気だとか、広すぎる視界だとか、いつもと違った状況が新一を、快斗を、高めていく。
「ァ…も、だめ、かいと、欲し…」
「うわっ!」
後ろをいじっていた指に翻弄され、欲望が抑えられなくなった新一は快斗を押し倒すと、その上に跨り、自ら迎え入れる。騎乗位自体は何度も行っているが、自分から入れたのはこれが始めての新一は、少々苦戦しつつも、どうにか快斗全てを収めることに成功した。
「うわっ…感動…まさか新一が自分からッ…入れるなんて」
「…るせぇ、い、からさっさと動け」
「仰せのままに」
腰を掴まれて下から突き上げられると、衝撃から声が上がる。もちろん野外ということも考慮して出来るだけ抑えてはいるけれど、それでも殺しきれない嬌声が漏れては夜の空に溶けていく。
体内で感じる快斗は、いつもより熱く、ビクビクと震えていて、彼の興奮を如実に伝えてくる。酸素を求めて開いた口に引き寄せられるように夢中で口付けると、酸欠から全身が痺れるような快感に包まれた。卑猥な水音に興奮が高まる。

もう、体も頭もぐちゃぐちゃだった。