ある日の一幕



快斗はその朝機嫌が悪かった。
喉の違和感とそれに伴う盛大な咳き込みと共に目覚め、体はダルく、少しだけ熱っぽい。
それでも学校を休むほどのそれではなく、けれどこんな日は休みたいななんて思いながらベッドの中でボーッとしていれば、携帯のアラームが盛大に鳴り響いて否応無くたたき起こされた。

起きてしまったものは仕方ない。とりあえず朝食と、弁当を用意するためにキッチンへ行く。
男子高校生が自分の弁当を用意する様はなんだか違和感があるが、母親が1週間ほどの旅行へ出かけてしまい、しかも当面の生活費ねと渡されたのは壱万円。
手馴れた者ならそれだけあれば優雅な生活を送ることも可能なんだろうが、生まれてこの方一度も自炊をしたことの無い彼にとっては死活問題。
毎食コンビニでいいやと思っていた甘い考えは一気に払拭され、冷蔵庫の中身を確認すればどうやって使えばいいのか、青梗菜や水菜といった野菜が入っていた。

四苦八苦しながら中学の時に行った家庭科の調理実習以来の料理に挑戦して3日。
元々無駄にこだわるタイプの快斗は、初めて作った自分の料理に絶望し、ネットで拾えるだけ拾ってきた料理の情報と、元々器用だったのが幸いし、たった3日で一般的な料理ができる人レベルにまで上達していた。


「今日の弁当は……とりあえず卵焼きだな」
冷蔵庫から卵を取り出し(今まで何の気なしに食べていたそれだが、スーパーに行って値段の高さに驚いたのは記憶に新しい)みりんや砂糖を加えて溶いていく。
熱したフライパンに(快斗の家に卵焼き専用のフライパンなんてもの存在しない)卵を流しいれ表面が固まるのを待つ。
「……………あ。」
どこをどう間違えたのか、気が付けば卵焼きはスクランブルエッグへと変貌を遂げていて。
流石にこんな形状では弁当にくわえることも出来ず、快斗は苛々しながらそれを朝食用の皿に移した。

ピーと炊飯器から音が鳴り、中を確認すればちょっとベチャベチャ。
どうやら水分が少しばかり多かったらしい。
何でこんな日に限って失敗ばかりするのか。がっくり肩を落としながら、パタパタと水分を飛ばしていく。

そんなこんなで、今日作った朝食も弁当も、なんだかとても散々なものだった。
結局何を作っても失敗した快斗は、最終兵器冷凍食品!とばかりに、冷凍庫の中で凍っていたから揚げや、シューマイをレンジでチンして弁当箱に詰めたのだ。ちなみに彼はあまり冷凍食品が好きではなく、どちらかというとこれまでの弁当だって自分ですべてのおかずを作ってきた。
そんな快斗からすれば今日の弁当はかなりの手抜きだ。



食後のコーヒーを飲みながら、メールチェックをする。と言っても時間のない朝のこと。さすがにパソコンを起動することはせず、携帯のメールチェックだけに留めておいた。

「ッ!」

思わずコーヒーを零しそうになって慌ててテーブルに置いた。
たくさんのスパムメールに混じって、滅多にメールを寄越さないあの人からメールが届いていたのだ。

『おはよう。今日も自分で飯作ってんのか?いい加減疲れたろ?今夜俺の家来いよ、夕飯作ってやるから。』

ぶっきらぼうだが心が温まるそれに、快斗は心底喜んで。
寝起きから先ほどまで続いたイライラが嘘のように消えていくのを感じたのだった。