Milk Junky



ここは日の光があたる場所を堂々と歩けない人々たちが集う、無法地帯と呼ばれる場所。
一体何をしているのか、奇抜な髪型をした男か女か判別のつかない人間が、路地に蹲ってケタケタ笑っているし、黒スーツにサングラスの危なそうな人たちとは何度すれ違ったかわからない。
そんな危険な場所を、胡散臭いガイドマップ片手にウロウロしているのは、ダボダボの服とジャラジャラのアクセサリーをつけた所謂B系と呼ばれる恰好の少年。
けれど、何だかその恰好もどこか似合っていなくて、この街に足を踏み入れるために無理やり誂えたのが窺える。
…要するにおのぼりさん、というやつだ。
少年はガイドマップを確認しながら、どこかの店を探している。

「あ、あった」
少年の視線の先はマンホール…。しかしそれはただのマンホールではない。マンホールの蓋には防水加工された画用紙に『暗黒薬局』と書かれたものが貼ってあった。
「ここでアレが手に入るんだな…」
少年は逸る心を押さえ、その蓋をずらすと、恐る恐る垂直に付けられた足場を降りていった。


「いらっしゃいませ。私は薬剤師の小泉紅子ですわ。何かお探しかしら?」
暗いマンホールの中、揺れる蝋燭の光の奥にいたのは、長い髪の女だった。顔や体型は黒い服と、心許ない蝋燭の光によってはっきりとは見えないが、声から随分と若いことが窺える。
「ここにミルク好きになる薬があると聞いてきたんだけど…」
少年は緊張しているのが相手に伝わらないよう、意識して声を潜めた。なんとなく、だけれど、こういう場所でおどおどしていると碌な事にならないような気がするというのが彼の主張だ。
「どうしてそれをお求めになりたいんですの?」
小泉は感情の篭らない声で淡々と尋ねる。薬剤師と自称するだけあって、一応問診か何かなのだろう。
「あの味とか臭いとか後味とか…そういうのが全部嫌なんだよ」
「お嫌いなら飲まなければいいだけの話ではないのですか?」 別に薬に頼らなくても、と小泉は言外に告げる。けれど少年はフルフルと首を振って、
「………アイツが出したモンを残したくないから」
と、消え入りそうなほど小さな声で本当の理由を言った。
「なるほど…あなたのような方が私のお客様には相応しいですわ」
そう言って彼女がどこからともなく差し出したのは、ごく一般的な牛乳瓶だった。
「………」
「………」
「………あの、俺の言った意味わかっててコレを出すのか?」
二人の間に奇妙な沈黙が流れ。少年は相手の意図が汲み取れず眉を顰めた。
「ええ、もちろんですわ。コレは見た目こそ牛乳瓶ですが、中身は無味無臭の白い液体ですの。そしてコレを飲んだ人間は誰もがミルクを好きになりますわ」
試しに一口飲んで御覧なさい、と小さな徳利のようなものに移されたそれを渡され、少年は恐る恐るそれを舐めてみた。
「あ、本当にただ白いだけなんだな」
「ええ、私のモットーはお客様のご期待に応えることですもの」
ニコリと笑って(実際には見えないが雰囲気で笑ったのがわかった)言った小泉に、少年は心の中で、なら牛乳瓶なんかに入れるなよと言ったが、実際に口に出す勇気はなかった。
「気に入ったぜ。コレを10本買う」
「ありがとうございます。こちらの商品は大変効果の強いものですの。飲む際は十分注意することね。詳しい説明書を同封しておくから、それにしたがってお飲みなさい」 言葉と共に渡された黒い紙袋を受け取るやいなや、少年はそそくさとその街を立ち去ったのだった。



「コレさえ飲めば……」
早足で街を歩く少年の小さな呟きは、誰の耳に届くこともなく喧騒に掻き消えた。


***



「どうした?やけにご機嫌じゃねぇか」
ただいまと、どこか弾んだ声でリビングの扉を開けた快斗に、新一は読んでいた本から目を離して尋ねた。
「んー、前から欲しいなって思ってたものが手に入ったんだよね〜」
ニコニコと笑う快斗は本当に嬉しそうで、彼は一体何を手に入れたのかと、新一は快斗を上から下まで観察する。
「それが欲しかったもの、か?」
新一の目が止まったのは黒くてしっかりした作りの紙袋だった。
「なんだよそれ」
「ヒミツ〜♪」
普段であれば新一が聞けば必ず答える快斗だが、何故か今回の問いには答えようとせず、しかしその表情は笑顔のままで。そんな快斗の様子に新一は少し眉を顰めた。
「ああもう、そんな顔しないの。後でちゃんと教えるからさ」
快斗は困ったように苦笑し、自分の背に紙袋を回して新一の額に触れるだけのキスを一つ贈る。
所詮はバカップルである。こんな子ども騙しで誤魔化されはしないと快斗を睨みつける一方、新一は彼が持っていた紙袋から興味を失うのを知覚したのだった。



「危ねー…流石に今アイツにバレたら恥ずかしいじゃ済まねぇよな…」
自室に戻ると、小泉が言っていた説明書を読むために、彼は紙袋の中を探ってみる。すると、一枚の小さな紙片に手が触れた。
「お、これだな…なになに…」
そこに書かれていたのはごくシンプルに飲み方と、簡単な注意事項だけ。どうやら一日一回瓶の中身を飲み、その後にミルクを摂取すれば、ミルクに対する苦手意識が薄れるらしい。そこから先を読もうとして、彼は眉を顰めた。ただし、と書かれたその先がインクが滲んで読むことが出来なかったのだ。目を凝らせば何か書かれているのはわかるのだが、余りにも滲みすぎて読み取ることは不可能だった。
インクの滲みに流石暗黒薬局と妙な納得をしつつ、説明書きを頭に叩き込むと、瓶の中身を一気に飲み干したのだった。



***



「んッ…かい、と…ソコばっか…」
「えーだって新ちゃんココ好きでしょ?」
それともどこか別の場所に触って欲しいのかな?と笑いながら、快斗は新一の雄をゆるゆると扱く。先ほど出したばかりだというのに、若い精はすぐに回復し。そのじれったさに新一は体を捩って抗議するが、快斗は意地悪な笑みを浮かべたままで。
「お、ねが…もっと…」
ちゃんと触って、と潤んだ瞳で訴える。そんな新一の様子に、快斗は生唾を飲み込み。
「だったら新一ばっかり気持ちよくなるのはフェアじゃねえよな?」
その意味するところを正確に捉えた新一は、笑う腰を叱咤しながら起き上がり、快斗の雄に顔を寄せた。

全体を丁寧に舐めて唾液を絡め、猛ったそれを咥えこむ。喉の奥で締め上げながら舌と唇と頭を忙しなく動かし、片手で袋をやわりと刺激すれば、堪らないのか快斗の口から小さく呻きが漏れた。
そんな快斗に気をよくした新一は、喉の奥の締め付けを強くし、確実に快斗を高めていく。
「新一最近フェラ上手くなったよなー」
咥えるのも嫌がっていた頃と比べれば雲泥の差だと快斗は心の中で思う。以前は咥内で射精しようものなら、体毛の辺りにでろーんと吐き出されていたのだから。
「ンっ…かい、とが…強要すっから…嫌でも覚え、るッ…!」
咥えながらでは喋りにくいのか、時折雄に歯が掠る。けれどその刺激は決して不快なものではなく、逆に快斗を高めていって。

突然新一の頭が掴まれ、激しく動かされた。どうやら射精が近いらしい。新一は苦しさに生理的な涙を浮かべつつ、快斗の動きに合わせて舌を絡め、強く吸い上げた。
「ッー!」
一瞬の硬直と、直後に咥内に広がる生暖かい液体、ビクビクと何度も震えながら出されていくそれを手伝うように更に強く吸い上げる。
精が全て出切ったのを感じると、新一は快斗の雄から離れ、口に溜まった精液をコクリと飲み干した。
「快斗…俺も気持ちよくして…?」
萎えてしまった雄を指先で弄び、唇を舐めながら上目遣いに誘えば、快斗の雄はあっという間に力を取り戻し。
二人はベッドの中に雪崩れ込んだ。






「新一おはよう、朝ご飯の用意出来てるし、降りといで?」
寝室のドアからヒョッコリと顔を出した快斗が、ベッドで小山を作っている新一に声をかけた。
「んー…行くーけど、腰痛い…連れてけ」
モゾモゾと顔を出した新一は両手を伸ばして、快斗に甘える。新一は滅多にこんな甘え方をしない。そんな滅多にない新一の行動に、昨日は無理させたしね、と心の中で苦笑して快斗は新一を抱き上げた。

「げ。何でコーヒーじゃねぇんだよ」
食卓の椅子に降ろされた新一の目の前にあったのは、こんがり焼かれたロールパンと、サラダとスクランブルエッグ。そしてホットミルクだった。
「コーヒーばっかり飲んでたら胃に悪いでしょ?食後に出してあげるから、今はホットミルクで我慢しな?」
快斗の言い分にむぅっと口を尖らせた新一はしかし、
「わぁったよ…ったく俺がホットミルク苦手なの知ってるくせに…」
ブツブツ言いながらもマグカップに手を伸ばすのだった。
「ぁ…?美味い…」
一口飲んでみると、思ったより独特の味もせず、新一は目を瞠った。
不思議に思い快斗を見れば、
「体が求めてるんだよ」
と、にこやかに返され。
そんなものかねぇ、とどこか釈然としないながらも納得した新一は朝食に手を伸ばした。


***



「よお」
「あら、いらっしゃい。その後調子はどうかしら?」
一週間後、少年はまたも暗黒薬局を訪ねていた。今回の訪問では前回のようなどこか緊張したような様子は消え去り、小泉の様子に物怖じすることはなかった。
「最高だぜ、まさかこんなに好きになれるとは思ってもみなかったよ」
「それは良かったですわ」
「っと、ところでこの前のやつもう10本ほどくれ。もうなくなりそうなんだよ」
財布を取り出しながら用件を告げると、
「あら、あなたにはもうアレは必要ないはずですわよ?」
小泉はニコリと笑って。
「え?」
「アレはただの切欠に過ぎないのですわよ?あんなものに頼らなくてもあなたはもうミルクを飲めるはずですわ」
「そうなのか…」
「けれど注意事項はくれぐれも守るようになさい」
「あ、そうだ。注意事項といえば…」
少年は財布から小さな紙切れを取り出し、小泉に渡した。
「ココが滲んでて読めなかったんだよな…なんて書いてあったんだ?」
「……!」
「?」
「…なんでもないですわ。妊婦や子どもに対する注意事項が書かれていたの、あなたには関係ない事項よ」
小泉の態度に釈然としないものを感じたが、これまで服用してきて何か問題が起きたわけでもない。少年は心配するほどのことでもないと結論付け、にこやかにその店を辞した。

「…この場合どちらが哀れなのかしら?」
少年が帰ってしばらくした後、水晶を覗きこみながら様子を窺っていた小泉は、言葉とは裏腹にニヤリと口端を歪めて悪い笑みを浮かべたのだった。


***



「ぅあッ!無理…も、むりぃ…」
草木も眠る丑三つ時。しかし煌煌と電気の付けられた一室に、二人の影が蠢いていた。一人はベッドに押し倒され、一人がその下半身に圧し掛かるようにして押さえつけている。
「んっ…新一ッ…!も、出ないって…!!」
新一に圧し掛かられた快斗が、必死で体をよじらせ新一から逃げようとしているが、雄の弱点を握られている以上、余り激しくも動くことが出来ず。ただ新一のなすがままになっていた。
「ダメ…許さねぇ…もっと出せよ、出るだろ?」
快斗の必死の抵抗と懇願に、ひたすら快斗の雄にむしゃぶりついていた新一は顔を上げ、ニヤリと笑って。
「ヒッ!!ちょ、ホント無理だって!枯れちゃう!!」
「まだ若いんだから…平気だって…」
「ちょっ…ゥッ」
きつく吸い上げれば、快斗の体がビクリと震えて。新一の下に熱い飛沫が広がった。
「………薄い…少ない…」
咥内の液体を飲み干した新一は、眉を顰めムッとしたように呟いた。
出ないものを無理やり搾り出された身としては、余りにも情け容赦ない言葉に思わず反論してしまう。
「いやいやいや快斗君頑張ったよ?!超頑張ったよ!!」
「こんな薄いのじゃ飲んだうちに入らねぇよ」
だから次は頑張れよ?と、新一は快斗が一番煽られると言っていた笑みで以て再びしゃぶりついたのだった。






「最近新一おかしいよな…うん、絶対おかしい!ちょっと前まで即嚼とか絶対嫌がってたのに」
新一が事件で呼ばれて出かけて行った後、快斗はリビングのテーブルに突っ伏して最近の新一との過激すぎる性生活を振り返っていた。
快斗だってやりたい盛りなのだから、新一と濃い夜を過ごせるのは願ったり叶ったりだ。しかし、ここ最近の新一は快斗の精力を搾り取る勢いでフェラチオに勤しんでいるのだ。嫌々やられるのも心が痛むが、嬉々としてされ続けられるのも正直ツライものがある。
特に疲れて帰ってきて、玄関の扉を閉めた瞬間に咥え込まれるのには、流石の快斗も戸惑ってしまう。(もちろん最初の頃は突然の新一の変化に喜んで、そのまま玄関でいたしてしまったりもしたが、毎日となると流石に遠慮したいのだ)
「…哀ちゃんの実験の一環だったりして…」
ふと心に浮かんだことをそのまま言葉にすれば、何だかそんな気がしてきて、それで間違いがないような気がして。
快斗は悪いと思いつつも、何か手がかりを探すために、新一の部屋に探りを入れる事にしたのだった。

「…コレって…」
そして数分後。新一の部屋の隅で見つけた、暗黒薬局というロゴの入った空の牛乳瓶とそこに小さく書かれた薬剤師の名前は、快斗の良く知ったもので。
快斗は瓶を握り締めると、家を飛び出した。


「紅子ぉ!!!!!!!!!!!!!って…あれ?」
マンホールの蓋に貼ってあった暗黒薬局の文字の下に、閉店しましたと殴り書きが書かれてある。蓋をこじ開ければ、そこはコンクリが流し込まれていて。
快斗は思わずそこに蹲ってしまったのだった。


***



「灰原ぁ…枯れない薬作ってくれよ…」
阿笠邸の地下に作られた哀専用研究室では、どこからか持ってきたパイプ椅子に逆向きに座った新一が、呆れ眼の哀には気付かず新薬の製作を依頼していた。
「工藤君あなた…黒羽君もたまには労わってあげなさいよ」
ハァと溜息をつきながら哀はなにやら試験管を振っている。
「何言ってんだよ、最初嫌がる俺にフェラさせたのはアイツだぜ?責任は取ってもらわないとな」



滲んでいて読めなかった箇所には、摂取上の注意として、ミルク−精液−を飲む時は一日一度以上に摂取しないようにと書かれていたのだった。
そしてもし一度以上摂取すると、ミルク中毒になってしまうとも。

新一が快斗のミルクを搾り取ってしまう日は近い…かもしれない。



***





<<あとがき>>

大好きな某マンガのパロディーです

ところで快斗が持っていた黒い紙袋には大人のおもちゃが入ってたらしいです
後日新一にばれて嬉々として使用されます。快斗が←
あ、あれ?ここ快新サイト…