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俗 Milk Junky
「快斗、今夜はゴーヤチャンプルーが食べたい」
珍しく新一から夕食のリクエストがあった。
普段から食事ごとにリクエストを聞いているのだが、食に関心が薄いのか、それとも自分に全幅の信頼を置いているのか、「あっさりしたもの」だとか、「冷たいもの」だとか、酷く漠然とした答えしか返ってこないのが常だ。
それが今日に限って珍しく、快斗が尋ねる前に新一から口を開いたのだ。
驚きで一瞬目を見開いた快斗は、しかし珍しい新一のリクエストにニッコリと笑って了承の意を伝える。
「そうだね、いい加減暑いし…夏バテ対策にゴーヤ食べとこうか」
頭の中でゴーヤチャンプルーのレシピを展開しつつ、スパムはともかく島豆腐をどうやって手に入れるかについてせわしなく考えていると、新一がポンと快斗の肩を叩いた。
「というわけで今夜は期待してるぜ?」
「やっぱりそう繋がるんだね…」
ゴーヤには精力増加の効果がある。怪しげな薬を飲んで以来、快斗の精の虜になってしまった新一のことだ。もちろんゴーヤの効果を知った上でのリクエストだろう。
ニヤリと誘うような瞳と共に発せられた言葉に、快斗はガクリと肩を落とし、深い溜息をついたのだった。
「ねぇ新一、どうせなら泡盛も一緒に買って沖縄っぽくしない?」
ゴーヤはともかく、スパムは近所のスーパーでは手に入れられなかったため、二人は揃ってデパートまで来ていた。滅多に夏場に外出しない新一と、夕食の買出しとはいえ日中に出かけられた事に、快斗は内心浮かれていたりする。
「泡盛ねぇ…日本酒はともかく、泡盛の美味い銘柄なんて知らねぇぞ?」
「んー俺もそんなに詳しいわけじゃないし、そもそも本州には有名どこしか入ってない気がするから、ラベルで適当に決めようよ」
「それもそうだな」
そんな会話をしながら酒コーナーに鎮座している泡盛を物色して。
「ね、これなんてどう?」
「んーまさひろか、何か聞いたことあるし、いいんじゃねぇの?」
「じゃあこれと…」
泡盛の瓶を抱えた快斗は、更に何かを探すためにコーナーの奥へと入っていった。
「おいおいまだ買うのかよ?」
「あ、うん。この前ね沖縄の人と話す機会があって、泡盛は実はカクテルのベースに使えるって話を聞いたから、ちょっと試してみようかと思ってさ」
快斗は工藤邸の洋酒を思い出しながら、足りないリキュールやジュースの小瓶を籠に入れていく。
「へぇ…どんなの作るんだ?」
「折角ゴーヤあるんだし、ゴーヤを使ったカクテルにしようかなって」
「………まぁ美味いので頼む」
新一が微妙な表情をしているのに気付いた快斗は安心させるように笑い。
「大丈夫だって、他にも色々試してみるつもりだから」
いつの間にか増えた荷物を二人は両手にいっぱい抱え、デパートを後にした。
その日の夕食はいつもとは少しだけ趣の異ったものとなった。
メインのゴーヤチャンプルーを中心に、ソーミンチャンプルーやモヤシチャンプルーなど、様々なチャンプルーと泡盛の水割りなどが所狭しと並んだ食卓に、新一は苦笑を洩らす。
「こんなに食べきれないだろ」
「大丈夫だって。消化に良いし、結構さっぱりしてるからいくらでも食べれるよ」
「まぁ残っても明日食えばいいんだしな」
「そうそう」
「とりあえず、乾杯」
取り皿に各々好きなものを取り分け、軽くグラスを合わせると、和やかな夕食が始まった。
一皿一皿は二人で食べることを思えば大した量ではないが、それが幾つかあると結構な量になる。
始めはその量の多さに驚いていた新一だったが、さっぱりとした味付けと、箸安めに用意されたもずくのおかげか、思った以上に食が進んで。いつの間にかテーブルの上には空の皿だけが残っていた。と言っても、皿の殆どは快斗が食べたようなものだったのだが。
「んー流石に腹いっぱい」
「そりゃあれだけ食えばな…」
食後のデザート代わりに、と快斗が作ったカクテルを二人でゆったり飲みながら、食後の時間を過ごす。とても穏やかで幸せな時間。
けれど、そんな時間は新一の一言で脆くも崩れ去った。
「んじゃ、快斗。腹も膨れたことだし、さっさと風呂入って上行くぞ」
ウキウキと浴室に向かう新一の後姿を見送りながら快斗は乾いた笑いを洩らすのだった。
***
食事の片づけをした後、快斗は手早く入浴を済ませ、新一の待つ寝室へ向かった。
新一が積極的に求めるようになってから、彼は先に寝室に入って快斗を待つことが多くなった。以前は快斗から誘わなければ恥ずかしがってリビングから動こうとしないか、珍しく先に寝室に向かったと思えば、ベッドの上で熟睡しているという事が多かった。しかし、今は快斗から誘う前に新一が誘うので、もちろん恥ずかしがることなどない。
恥らんでいたあの頃が懐かしいと、快斗は内心溜息をつきながら寝室の扉に手を掛けた。
「新一…?入るよ」
そっと部屋を窺えば、煌煌と照らされた照明の下、ベッドの上で妖しく足を組み快斗を誘うような笑みで新一が待っていた。
「おせーよ…早く…」
片手を差し出して、近づいた彼の首に腕を回し一気に引っ張れば、バランスを崩した快斗が新一を押し倒すようにベッドに上がって。
快斗はそのまま新一の唇を奪った。
息も出来ないような深い深い口付け。くちゅ、と時折妖しい水音を立てながら、二人は熱心に唾液を交換し合う。
泡盛と入浴で火照った身体は、最早二人を高める要因にしか過ぎなくて。
パジャマをお互いに脱がせながら、それでも唇を離すことはせず、それはどこか粘膜から繋がろうとしているようにも見える。
「ンっ…」
舌先で歯列をなぞった時、新一が小さく喘いだ。快斗はそこを重点的に攻めながら、空いた手でその白くて熱い肌を辿っていく。
そのたびに新一の身体はビクビクと反応して、確実に快感を伴っていることを快斗に伝えた。
快斗にとって、この瞬間がここ最近でのセックスでは一番好きなものである。もちろん新一の中に入ることは彼にとって最上級で愛すべきひと時なのだが、魔女が作った怪しげな薬を新一が飲んで以来、新一は一度目は確実に口でイかせてこようとするため、快斗としては油断ならないのだ。
もちろんそれがセックスレスなどではなく、快斗の精子を飲むためだとわかっている。その証拠に、最初の濃い精子を飲んだ後は(新一の気分次第ではあるが)繋がる事に対して抵抗を見せない。しかし、一度目だけは絶対に新一と繋がることを許されなくなった快斗は、どうにかして最初から彼と繋がる方法を画策し。前戯の時に上手く自分が主導権を握りさえ出来れば数回に一度は最初から繋がれることを発見したため、近頃の快斗は、前戯の瞬間が一番好きになってしまっていた。なんとも不憫な彼である。
しかし、この日も快斗の奮闘空しく、快斗が気付いた時には新一に主導権を握られており。
「あぁっ!」
しっかりと下半身を咥え込まれていたのだった。
***
「………まずい」
嬉々として快斗の雄にしゃぶりついていた新一はしかし、快斗が射精した直後から眉を顰めていて。普段であれば幸せそうに舌の上で転がした後、味わうようにして飲むのだが、なぜか今日に限って掌に全て吐き出してしまった。常とは違う新一の行動に快斗が戸惑っていると、苦虫を噛み潰したような顔で新一がボソリと、快斗にとって信じられないことを言った。
「は?」
「こんなもん飲めるか!快斗テメェ何食いやがった!」
「いや、ちょ、言ってる意味がわからないんだけど」
今にも殴りかからんばかりの勢いで新一は快斗に食って掛かるが、快斗自身一体何で責められているのか全く把握できておらず。ただひたすらに目を白黒させることしか出来なかった。
「だからッ!精子がやけに苦くて舌がビリビリするような刺激があって…青臭くて………」
息巻きながら今日の精子が如何にまずかったのかを表現していた新一だが、なぜか途中から探偵モードに入り。
「新一?」
「………ゴーヤか」
快斗が不思議そうに声をかけてもそれは届いていないようで、一人ブツブツと呟きながら納得している。
「は?一人で納得してないで俺にも説明してよ」
「あ?あぁ。今日の夕飯にゴーヤ食っただろ?んで、ゴーヤの味が精子に移ったみたいなんだよ…」
「…ゴーヤの味が多少移ってもさぁ、精子と大して味なんて変わらないんじゃねぇの?どっちも苦いし」
「はぁ?アホな事言ってんじゃねぇよ。全然違うぞ。まぁ好みの問題だろうけど、俺にとって快斗のはずっと飲んどきたいくらい美味いけど、ゴーヤ味になったら口に入れるのも嫌だって思ったくらいだしな」
心底嫌そうな顔で吐き出したものを見つめている新一に、それまで唖然としていた快斗は、しかし。
「ふぅん…新一は俺のが好きだって言ってたのに、たかがゴーヤ食べたくらいで嫌いになるんだな」
「は!?テメェなに言ってやがる。たかがって、相当酷いぞコレは」
「だってそうじゃん!今まで何食べても、てゆかそもそも風呂入ってなくても嬉々として咥えてた奴がさ、たかがゴーヤ食べただけでそんな反応するとかおかしいだろ!」
「だったら快斗も試してみればいーじゃねぇか」
「俺だったら絶対新一のまずいとか言わない自信あるぜ?」
「男に二言はねーよな?」
新一は快斗を睨みつけ、ふふんと鼻で笑い。先ほどの遣り取りで萎えてしまった新一自身を快斗の目の前に差し出した。
周りが呆れるほどに愛し合っているとはいえ、元々プライドの高いの二人である。バチバチと火花が散りそうな強い視線を無言で交わし、快斗はおもむろに目の前のそれを口に含んだ。
「ッ…」
セックスの一環で快斗が新一のそれを咥えることはもちろんあるが、どちらかといえば新一が嬉々として快斗を咥えることの方が多いため、実のところ新一はフェラチオをされるのには慣れていなかったりする。殆ど勢いで差し出してしまったが、いざ咥え込まれると羞恥や戸惑いが新一の中に広がった。しかし快斗はそんな彼を気に掛けるでもなく、舌と唇を使ってそれを愛していく。
萎えてしまったとはいえ一番敏感なそこを柔らかく咥え込まれると堪らない。舌先で何度か転がされるとそこはあっという間に勃ちあがり、強い快感を新一に伝えてくる。
しかもこのフェラチオは射精を促すことを目的としているため、新一が強く感じるポイントだけを的確に突いた動きだった。
新一は遅漏というわけではないが、だからと言って早漏でもない。フェラチオを始めて数分、中々イかない新一に焦れた快斗は自分の指を二本舐めて濡らすと、唾液が垂れてビチャビチャに濡れた後ろの蕾に指を宛がった。
「ッ快斗?!」
フェラチオだけでイかされるものだと思っていた新一は、思いがけない快斗の動きに戸惑った声をあげ、不安げに快斗に視線を合わせた。
「だって新一こっちもあったほうが感じるだろ?」
ニヤリと笑って言えば、歯が軽く当たってそれが新たな快感を呼ぶ。埋められた指は的確に新一の前立腺を突いていて、新一は強すぎる快感に身悶えるしかない。
弱い二箇所からの責めに、しっかりと慣らされた身体が耐え切れるはずもなく、新一は小さな悲鳴を上げながら快斗の口の中に吐精した。
「………ごめんなさいまずかったです俺が悪かったので許してください」
ベッドの上で優雅に足を組み、女王様さながらの上から目線の先にいるのは、泣きそうになりながら謝っている快斗だった。
案の定快斗は、新一の精子が口に入った瞬間、その味に目を白黒させて思いっきり口から垂れ流してしまった。そして垂れ流された精はそのまま重力に逆らわず、新一の雄を伝って周囲をドロドロにし、そこに留まった。
陰毛の中に精子が入って固まれば取り除くのが厄介な事になるのは、同じ男である快斗にとって想像に容易い。慌ててウエットティッシュでそこを拭いたが、全てを綺麗に拭うことは出来ず結局少し固まってしまい、そこを見た新一は酷く不機嫌になってしまったのだった。
必死に謝りながらも快斗は、頭半分で今夜はもう新一を抱けないだろうなとガッカリし。
しかし、新一と最初から繋がりたい時は予めゴーヤを食べておけばいいのだと発見した快斗は、次にゴーヤを食べる日をいつにするかウキウキと考えていたのだった。
もちろんその考えが新一にわからないはずもなく、この日以降、彼らの食卓にゴーヤが並ぶことは滅多になくなったという。
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