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よく当たるおまじない
【好きな人の名前を赤いペンで99回書く。100回目をその人に書いてもらうと両想い。】
東方司令部のロイ・マスタング大佐には、どうしても気になる存在がいる。それまで百戦錬磨だった口説き術も、どんなにご機嫌取りに尽力しても、その存在はいっそ見事なまでに振り向いてくれることはなく。
いい加減へこたれそうになっていたある日、彼の目に一冊の女性向け(というか少女向け)雑誌が止まった。
その雑誌の表紙には『ドキドキ!大好きなあの人と両思いになれちゃうおまじない特集☆』と、やけにはじけた色使いで煽り文句が書かれている。
ロイの横では、陳列棚に積まれたそれを見ながら12歳ぐらいの少女二人が、
「あ!新しいの出てるよ!!この占いとかおまじないとかホントに当たるんだよねww」
「だよねだよね!!私この前これに載ってたおまじない試して、両思いになっちゃったww」
などと楽しそうに話している。きゃっきゃと黄色い声を挙げながら、彼女たちはそれぞれ雑誌を手に取りレジへと向かった。
その会話をじっと聞いていたロイ・マスタング29歳(地位大佐)は、雷に打たれたような衝撃を受けその場に固まり。徐に雑誌を手に取ると、ものすごい勢いでレジへと向かったのだった。
【好きな人の名前を赤いペンで99回書く。100回目をその人に書いてもらうと両想い。】
「…ワード・エル…エド…ド…リックエ…ード・エルリ…ドワーd…」
執務室から念仏の如く声が聞こえる。
ブツブツと低い音のそれは、ただでさえ近寄りがたい執務室を、さらに近寄りがたい雰囲気にしていて。ロイの腹心の部下たちは怯えて耳線まで持ち出す始末。それでも耳の奥に声が聞こえてくるようだと、半分泣きながら訴えるのはハボック。
このような時に一番頼りになるはずのホークアイは、非番だったりする。
ロイが一体何をしているのかはわからないが、どうせまた碌でもないことをやっているのだろうと、巻き込まれたくない面々は声に怯えつつ、なるたけ執務室には近寄らないようにしている。
そんな時、廊下から二つの賑やかな足音が聞こえてきた。
コンコンと控えめなノックの後、扉の向こうから現れたのは彼らが弟分と可愛がるエルリック兄弟で。
「ちわーっす。近くに来たから立ち寄ったんだけど…今日は忙しくない?」
きょろきょろとオフィスを見渡しながら、エドワードが尋ねる。元々エドワードはそんな事を尋ねる性格ではないのだが、扉を開いた時に感じた不穏な空気に思わず口をついて出ていたのだった。
「あ、あぁ…けど、今日は大佐のトコ行くのやめた方がいいかもしれないぞ。」
耳栓を外しながらハボックが言う。何故耳栓が?エドワードは目ざとく疑問に思う。ついでに言うと、ハボックの後ろで、ブレダがあーあと言うような、何かハボックに言いたいようなそんな顔をしているのも非常に気になるところである。
エドワードはにっこりと笑って。
「へー何があったんだ?教えてくれるよな?」
兄さんの笑顔ほど怖いものはありません。(アルフォンス・エルリック談)
【好きな人の名前を赤いペンで99回書く。100回目をその人に書いてもらうと両想い。】
「よーぉ大佐、また碌でもないことやってるんだって?皆怯えてるぜ?」
「なっ鋼の!?!!」
ばーんと、正義のヒーローよろしく登場したエドワードは、驚くロイに構わずつかつかとその机に歩み寄った。
「ヒッ!!!」
ロイが慌てて机の上の紙と付箋の付いた雑誌を隠そうとするのを見逃すほどエドワードは優しくない。動転したロイの隙を縫って、それらを奪い取った。
「…。」
「…。」
まず雑誌の付箋が付いたページを見たエドワードは、次に別の紙に目を落とし。そのままそれらを見つめたまま黙り込んでしまった。
「…。」
「…は、はが」
「何やってんだよ。」
気まずさに耐え切れなくなったロイが口を開いたとほぼ同時に、エドワードの冷たい声が落とされた。
「ッ…!」
その声の冷たさに、ロイはビクリと体を震わせる。
「は、はがねの…」
「…で、これが99回書いたっていう『好きな人の名前』か。」
エドワードは呆れたように笑い、ビラビラと紙を振りながらロイに見せる。
「エドワード・エルリック」
クスリ、と笑い。わざわざ言い聞かせるように一文字ずつ区切って。
エドワードはそこに書かれた文字を読み上げた。
ロイはただ下を向き、黙って審判を待つしかない。まるで気分は死刑囚だ。
「本気、だったんだ…あんた馬鹿だろ。」
「ッ!!!」
エドワードの哀れむような声に、ロイはバッと顔を上げた。幾ら罵られても耐え切れるけれど、気持ちを疑われるのだけは辛かった。
しかし、目が合ったエドワードの顔は穏やかで。
「仕方ねぇ大人だな。大佐ともあろうお方がこんなもんまで買ってよぉ。こんなガキ相手に何本気になってるんだ。」
告げる言葉とは裏腹に、エドワードは穏やかに微笑みすら浮かべて。
ロイはエドワードの心を計りかね、ただ彼を見つめる。
そんなロイに優しい視線を向け、エドワードは固まるロイの手からそっとペンを奪い。
「これ99個書いてあるんだろ?」
「鋼の…?」
「仕方ねぇから最後の一個書いてやるよ。」
不自然に空いた最後の欄にエドワードは自身のフルネームをしたためた。
【好きな人の名前を赤いペンで99回書く。100回目をその人に書いてもらうと両想い。】
「全く大佐もホント馬鹿ですよね〜。」
のほほんと笑いながらアルフォンスが兄を待つ。その間の相手はオフィスの面々。
「だって兄さんってばわかり易すぎるのに気付かないなんて。僕安心してあの人に任せられないなぁ〜。そう思いません?ハボック少尉?」
子どもっぽい少し高い声で同意を求められたその言葉はしかし。
「は、ははははは…。」
エルリック兄弟はどっちも恐ろしい、とハボックは悟ったのだった。
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