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『Just Dance』
いや、特に俺の行為に他意はなかったんだけれど、風呂上りに前を歩く快斗のパジャマの裾をギュッってしたらベッドに運ばれてた。
その時見せたアイツの驚いた顔と、その直後にはじけた笑顔に気をとられてる隙に運ばれてしまっていて、俺って一体…と、ベッドの上でちょっと遠い目になってしまった。 けれど、それもつかの間。
「ッ新一でもヤりたい時ってあるんだ」
耳元に熱く落とされたその言葉で、俺は自身の欲望を自覚した。
繋がった場所がアツイ。ローションと体液にまみれたそこが、ヌチヌチと嫌な音を立てながら快斗を咥えこんでいる。油断したら快斗を全部食べてしまいそうだ。でも羞恥を感じる余裕なんてとっくに消えた。
快斗に跨って腰を振って、身体を全部使って踊り狂う。キモチイイ。
「ァ…!、ン…ッ」
もはや意味不明な喘ぎしか出てこなくて、止められない。突き上げられる瞬間、腰を擦り付ける瞬間、動く瞬間、全部の瞬間に頭が真っ白になる。快斗、快斗、かいと、もっと気持ちよくして。
「新一気持ち、い?」
汗を滴らせて尋ねる快斗からも余裕が消えていて、俺を余計に煽る。余裕のある快斗より、獣みたいにがっつく快斗のが、嬉しい。いつもはあまり感じない男臭さみたいのを感じて、キュンってなる。うわ俺今キモイこと思った。
「気持ち、いい…快斗も、?」
普段素直じゃない口は、こんなときだけ正直になる。けど、たまには快斗を喜ばせるようなこと、言ったって、いい。
普段の快斗、なら、こんなこと言ったらスゲー喜んで、ウザくなるんだけど、セックス中は違うから。だってほら、あ、また、強く突かれる。抱きしめられる。キモチイイ。
ダンスフロアで踊り狂う俺は、今、最高に気持ちいい。あ、幸せ、かも。
熱帯夜
「なあキッド、あちーよな」
「あ?ああ…夜だってのに気温が下がってねえからな」
「ああ…今日は暑すぎる」
犯行を終えたキッドは、盗んだ宝石を確認するために人気のないビルの屋上に立ち寄った。
ここに立ち寄ったのは風向きと、警察の動きを読んだ結果だ。つまり、最初からこのビルと決めていたわけではなく、もちろん計画には入れていたが、それでもギリギリまで自分がどこに降り立つかは決めていなかった。
そうして降り立ったビルの屋上にはしかし、先客がいた。
「よおコソ泥、久しぶりだな」
「…なんで名探偵がこんなとこにいるんだよ」
突然かけられた声に、キッドは一瞬緊張し、次の瞬間には疲れきったように肩を落とした。
「俺を舐めんなよ、テメーの動きくらい予想の範囲内だ」
ふふん、と笑うその顔が憎らしい。
「獲物盗ってきたんだろ。さっさと確認しちまえ」
そう言ってクルリと後ろを向いた新一に、キッドは釈然としないまま、それでも宝石を確認した。
一瞬の沈黙。
目当てのそれではないことを確認したキッドが小さく息を吐き出すと、図ったように新一がこちらに向き直った。
無言で差し出す探偵の手に、宝石を差し出す。
そのまま受け取るかと思われた探偵の腕はしかし、宝石を素通りし、キッドのネクタイを掴んだ。
「ッ!」
突然の接触にキッドは息を詰める。その一瞬の隙を突いて、新一は更にキッドとの間を詰めた。
気づいたときには、鼻先ほんの数センチの距離にまでなっていて、もはや逃げることも叶わない。
「なあキッド、あちーよな」
互いの呼吸すら触れる距離で、新一が突然言葉を発した。
「あ?ああ…夜だってのに気温が下がってねえからな」
「ああ…今日は暑すぎる」
ニヤリと笑った新一の表情に、キッドは嫌な汗が背を伝うのを感じた。
「めめめ名探偵!?」
「あー?…んだよ」
「ちょ、な、何やって!」
新一は今やキッドの下肢に抱き着き、股間に頭を寄せている。あの名探偵に咥えられているというのに、衝撃の方が強すぎて気持ちいいなどと思う余裕がないことが悔やまれる。
「ナニって…まさかわかんねーの?」
天下の怪盗キッド様が?と、キッドを咥えたまま、からかうような視線を送られ、キッドはカッと頬に熱が上るのを感じた。
確かにキッドは、いや、快斗は童貞だし、キッドなんてやっているせいで、誰かと、青子と付き合う予定もまだない。
だからといって、新一が行っている行為の意味がわからないほど子どもではないし、興味だって人並みにはある。
だからこそ混乱しているのだ。
熱帯夜独特のムッとした空気に、じっとりと汗が纏わり付く。あまり気持ちいいもんじゃない。
「なあ、キッド…暑さのせいにしちまおうぜ?」
唇を濡らし、顎の先に唾液を滴らせた探偵が魅惑的に笑った。
どこに触れたってぬるぬる滑る肌は、気持ち悪く、しかし獣じみたこの行為にちょうどよい。
溺れるには最適の身体。
妊娠の心配はないし、下手な風俗よりよっぽど安心できる。
スタイル、ビジュアル共に満点だ。
同性というのが唯一の難点だが、挿れてしまえば同じだった。
いや、女の経験はないのだけれど。
身体の上に跨がり腰をくねらす新一を、キッドはぼんやりと見ていた。
「考え事か?余裕だな」
「…」
「なにもかも暑さのせいなんだ、今は俺に溺れとけ」
言葉と共に降ってきた激しい口付けをしっかりと受け止めて、怪盗は探偵に溺れた。
永遠の嘘パロ
「工藤君!黒羽君が…!」
息を切らして病室に飛び込んできた灰原に苦笑を返し、新一はそっと窓の外を見上げた。
「アイツなら大丈夫だよ」
「そんな…今ならまだ追いかけられるのよ!」
「灰原!…大丈夫だから。だから、俺はここで、治療に専念する」
工藤新一がAPTX4869の解毒剤を飲み、黒の組織との戦いで悲願の勝利を得たのは、3ヶ月前のことだ。
しかし巨大な組織を潰すにはそれ相応の犠牲が出る。新一は組織との戦いにおいて利き腕の自由を失った。あの組織を相手にして腕一本の犠牲で済んだのだからラッキーだったと、本人は思っている。
確かに組織との戦いでは腕一本の犠牲で済んだ。しかし、新一の体は、劇薬の投与により、本人も知らぬところでボロボロになっていた。
それに気づいたのは、殲滅戦が終わってしばらく経ってからだった。ある日慣れない左手でコーヒーを淹れていた新一は、酷い頭痛に襲われ、意識を失っているところを灰原に発見された。
詳しい検査の結果、いくつかの臓器が酷く傷ついているのが発見され、以来、入院生活を余儀なくされている。
灰原曰く解毒剤の影響で、内臓が身体の急激な伸縮によって傷ついていたらしい。組織殲滅戦の間に無茶をしたことで、ギリギリで耐えていた体がついに耐えられなくなり身体症状に出てしまったのだという。
組織との戦いを終えた新一は、そのまま快斗の、キッドの敵と戦う予定だった。
初めからそのつもりで二人で協力してきたのだ。
腕一本の犠牲ならまだどうにかなった。しかし、身体が動かなくなってしまった新一には、もうどうすることも出来ない。
無理に付いていっても快斗の負担になるだけだ。
そう話し合って、快斗は新一を病室に残し一人戦いに赴いたのだった。
「あなたでさえFBIや警察の協力なしに…黒羽君とあなたの頭脳なしには組織を潰せなかったのに…単身でなんて…無茶だわ」
「平気だ、アイツはスゲー奴だからな」
寂しそうに笑って新一は空を見上げた。
***
『怪盗キッドNYに現る!』
『今度はエジプトに予告状!』
『上海で怪盗キッド発見か』
新聞の見出しが躍る。付けっぱなしのテレビからは様々な国のキャスターが興奮したように何事か言っているのが聞こえる。
「やっぱり、俺がいなくてもオメーは平気だな」
灰原には、ぼやけた写真を見ながら酷く嬉しそうに笑った新一の真意を図ることは出来なった。
***
快斗が日本を発ってから2年が過ぎた。
一時期世界中を賑わせていた怪盗キッドのニュースは、今や殆ど見られない。
時折模倣犯が出たり、特番が組まれ、今や名探偵になった白馬がゲストに呼ばれ、現在のキッドの消息を推理するくらいだ。
「ねえ工藤君、こんな噂を見つけたのだけれど…」
そう言って灰原が見せたのは、どこかの掲示板を表示したパソコンのモニターだった。
「……ここの、ほら、コレ。工藤君によく似た人を上海で見たって……病人みたいだったって……」
ある程度回復した新一は、ここ一年ほどで少しずつ探偵業も行うようになってきた。以前ほどではないにしろ、マスコミに露出することもあるので、新一が人々の話題に上ることがあってもおかしくはない。
けれど、新一は組織殲滅戦以降、海外には行っていない。
「ねえ、コレってまさか黒羽君じゃ…」
「違う」
「え?」
「快斗はそんなに弱いやつじゃねーよ」
きっぱりと言い切る新一が、しかし、灰原の目には強がっているだけに映った。
「工藤君あなた…」
それきり何も言わなくなった新一に、灰原は複雑な視線を投げることしか出来なかった。
一ヵ月後、新一のもとに快斗から2年振りの便りが届いた。
そこには組織を追うためまだ帰れそうにないこと、自分を忘れて欲しいこと、そして新一が幸せになるよう祈っているということが書かれていた。
「嘘つき…」
手紙を握り締めて新一が呟いた言葉は快斗には届かない。
worlds パロ
俺の名前は工藤新一。
幼馴染の蘭と遊園地に遊びに行った帰り、怪しげな男たちの取引現場を目撃した。
取引を見るのに夢中になっていた俺は、背後から忍び寄るもう一人に気づけなかった。
男たちに襲われ、怪しげな毒薬を飲まされた俺は、目が覚めると身体が縮んでいた!
幼馴染の蘭の所へ正体を偽って転がり込み、紆余曲折あって、ついにあの毒薬の解毒剤を手に入れた!
「ここは…」
白い、世界。
ツンとした消毒の匂いのする部屋。遠くで放送音が聞こえる。
「お、気が付いたか」
視界の奥に、人影が見えた。影はゆっくりと近づいてきて、そして俺を覗き込んだ。
「気分はどうだ、工藤新一クン?」
「ッ!」
目の前にいたのは、俺、だった。
「オメー…キッド…?なんでここに…」
ここまでそっくりに化けられるのは、あの気障な怪盗くらいしかいないだろう。
APTX4869の解毒剤を博士の家で飲んだあとの記憶はないが、もしかしたらお節介な怪盗が様子を見に来たのかもしれない。
あくまで俺たちは敵同士だが、元の姿に戻る旨は簡単に伝えてある。もし俺の身に何かあったときのために、蘭たちを上手くごまかして永遠の嘘をついてもらうためだ。
「…?夢でも見てるのか?…それとも記憶が混乱してるとか?」
目の前の男は俺の言葉に首を傾げながら、何事か呟いていたが、やがてニコリと笑って手を差し出してきた。
「まあその辺は後々検査するとして、俺は黒羽快斗。オメーの主治医ってとこだ。よろしくな!」
黒羽の説明によると、俺は3歳の時に両親と車で出かけているとき暴漢に襲われ、そのまま意識不明になってしまったらしい。
両親はその時の怪我で数週間後に死亡。
唯一残された莫大な遺産は、弁護士を通して俺の治療費に当てられたらしい。
ちなみに年齢は20歳。つまり17年も眠りっぱなしだったというのだから、何とも恐ろしいことだ。
「で、数日前から目覚めの兆候が見えたから、俺が張り付いてたってワケ。何か質問は?」
「…俺の記憶が正しければ、俺は17歳の高校生で、探偵として警察に信頼されていたし、オメーそっくりの気障な怪盗を追いかけてもいた。あと、俺の両親はまだ死ぬどころかピンピンしてやがるぜ?黒羽の話は理解できねえな。」
そういうと、なぜか黒羽は痛ましい顔をしてこちらに向いた。
「…夢でも見ていたんじゃねえのか?」
「夢?」
「工藤は3歳の時までは普通に生活していたんだ。その時の記憶が夢を見せていたって不思議じゃねえだろ?」
「…俺にとってはコッチの方がよっぽど夢みてーだけどな」
話しているうちに、本当にこの世界は夢だという気がしてきて、そう思うと徐々に眠気が襲ってきた。
「…オメーの現実が向こうにあったとしても…生きていくためにはこの世界を受け入れなきゃなんねえんだよ…」
意識の奥で黒羽が呟いた声はもう聞こえない。
「工藤君!よかった…!目が覚めたのね!」
「うわっ!」
目が覚めると、目の前に灰原のアップがあった。心なしか涙ぐんでいる。なんつーレアな瞬間だ。
「何だよ灰原……」
「何だよじゃないわよ!解毒剤飲んだ瞬間から意識不明になって…どれだけ心配したと思ってるの!」
「え…」
「………お帰りなさい。名探偵の工藤新一、さん?」
そう言って微笑んだ灰原が差し出した鏡の向こうには、高校生の姿の俺がいた。
「あ…」
「解毒剤は成功したわ。もう二度とあなたの身体が縮むことはないの。これからは普通の高校生として生きられるわ」
涙ぐみながら伝えられた言葉に心が躍る。
「…灰原、ありがとな…」
「おはよう」
朝の光のあまりの眩しさに俺は強制的に眠りから引きずり起こされた。
「んだよ蘭…まだ起きるには………」
まどろみの中で恋人の名前を呼んだ。一緒に眠るためだ。
「あー?なぁに寝惚けてるんだ?工藤、起きろ」
しかし現実は、俺を一気に覚醒に導いた。
「なっ!誰だテメー!」
「誰だって………工藤の主治医の黒羽快斗君ですよ」
「あ…」
眩しいと思った光は寒々しい蛍光灯で、この部屋の窓には重苦しい遮光カーテンが引かれている。
俺は混乱する頭を抱えてのろのろと起き上がった。
「…また夢を見ていたのか?」
水の入ったペットボトルと、白い錠剤を渡される。
「ああ…なあ黒羽、俺は本当はどっちの人間なんだろうな」
錠剤を一気に飲み込むと、俺はここ数日ですっかり日常になってしまった黒羽の簡単な検査を受けるために上着を脱いだ。
「さあ、工藤が真実だって思うほうが正しいんじゃねえの?」
「ところで今日は、引きこもりの工藤を外に連れ出してみようかと思うんだけど、行くよな?」
ニヤニヤ笑いながら言われた言葉にカチンとくる。別に引きこもりたくて一日ベッドにいるんじゃない。検査のために動けなかっただけだ。
黒羽曰く17年振りの世界は俺の知っている東都とは何もかもが違った。いや、そもそもここは日本ですらない。
車は空を走っているし、人々は中に浮いたボールのようなものと行動している。
戸惑う俺に複雑そうな視線を向けた黒羽はしかし、次の瞬間。
「ああ、そうだ。ココでのルールは唯一つ、弱肉強食、だ!」
そう言って後ろから襲い掛かってきた暴漢を蹴り倒した。
何なんだ…この世界は
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