MUSIC HOUR



「ただいま。なぁアル、クソ親父は?」
「お帰り兄さん。珍しいね、どうしたの?兄さんが父さんのこと一番に尋ねるなんて。」
俺は自宅のリビングで寛ぐ弟に、帰宅して開口一番、親父の所在を尋ねた。
「ああ、ちょっと尋問したいことがあってよ。」
俺たちの存在がメディアに流れているのは仕方が無い。けれど、名前を変えていることすらコアなファンに知られているなんて。ちなみにマスコミには俺たちの名前や特徴を伏せるよう圧力をかけてある。しかも業界最大手と言われる親父の所属するレコード会社から。もしこの圧力を跳ね返してメディアが報道したら、きっと報道した会社は以後の活動は出来なくなるんじゃあないだろうか。会社からの制裁に加え、個人の問題だから法律まで関与してくるわけだし。
そんな状況で守られている俺たちのプライバシーがああも詳細に流れているなんて。
「親父がどっかのライブとかでポロリと零したに違いないんだよ…!」
地を這うような声色とは、今のエドワードの声のことをいうのではないだろうか。
「ちょ、兄さん、何があったのかは知らないけど、父さんは今ワールドライブの真っ最中でしょ。帰ってくるのは当分先だよ!!」
弟のアルフォンスが忘れたの?とでも言うように言葉を挟む。

使えない…!

エドワードは心の中で盛大に舌打ちし、今頃気持ちよさそうにファンに囲まれて歌っているであろう父親を思い浮かべた。


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あの自己紹介を兼ねたホームルームの後、俺は個人的にマスタング先生に呼び出されたのだ。
内容?そんなもの今更語るまでもないだろう。親父についてだよ。
余りその時の会話は覚えていない。けど大体予想はつく。先生には悪いけど、俺は親父が嫌いだ。だから、きっと先生の憧れを砕くようなことばかり言ったんだろうな。
家での親父がどれほどヘタレであるか、とかさ。

そして、粗方質問も終わって、早々に先生の元を立ち去ろうとした時、不意に声を掛けられた。
「エルリック。」
俺は立ち止まって、ゆっくり振り返る。もうこの頃には、っていうか、あいつの本性が見えた瞬間から俺の『蛇に睨まれた蛙状態』は無くなっていた。
というか、俺を呼んだ声がやけに高圧的な気がする。
「何ですか、先生。」
「お前のお父上がどんなに私の憧れであっても、お前を特別扱いしたりはしないからな。私は厳しいぞ。努力して努力して…俺に喰らいついて来い。」
ニヤリ、そんな表現がぴったりな表情で目の前の教師は笑った。
「ーッ!」
その途端、心臓が跳ねた。今まで、クソ親父と俺の関係を知って媚びてくる奴らか、知らなくて普通の扱いをする奴らとしか出会ったことがなかったから。
俺を、エドワードを、エドワード・ホーエンハイムを個人として認めた奴に出会ったのはこれが初めてだった。
「ァ、当ったり前じゃん…あんたが持つ知識なんて一気に追い越してやるよ。せいぜい抜かれないように背中を守りながら走ってろ。」
教師にこんな口を利いていいものか、なんて事は全く脳裏から消えていた。ただ、嬉しくて、嬉しかったのだから。


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「で、兄さん、新しい先生はどんな人なの?」
夕食を食べながら、アルフォンスは興味津々といった感じで聞いてきた。
「あらエド、先生代わられたの?どんな方?」
母トリシャも、アルフォンスの言葉を受け質問をしてくる。
「あー…変な奴。っていうか、親父の熱烈なファン。」
俺は人参を頬張りながら答えた。
「それは…大丈夫なの?」
アルフォンスが苦々しげに尋ねてくる。当然だ。今まで、父親のことを知った教師にサインを強請られたことなど一度や二度ではない。
だから、学校では出来るだけ隠し通してきた。今日の一件でクラスの奴らには知れ渡ってしまったけれど、それまでに培った友情があるし、彼らも薄々気付いていたらしく、ホームルームが終わっても、特に何か起こるといったことはなかった。というか、親父のバンドはある一定の年齢より上でないと受けないのかもしれない。ロックの神としてその道では崇められているけれど、俺たちの年代ではもっと若いバンドの方が取っ付き易いのが現状なわけだから。
「まぁ大丈夫だろ。あいつ…初めて俺のことを個人として扱ってくれたんだ。親父のファンなら、もっと特別待遇とかそういううっとおしいの想像してたから…。何か妙に高圧的な奴だけど、信用していいと思うし。」

ぼんやりと学校での一件を思い返しながら語っていると、母がポツリと一言。
「エドったら珍しいわね。もしかしてその先生に恋でもしちゃった?」
爆弾発言を落とした母はどこか楽しそうに見える。
「ッ!!!!母さん!!!!アイツは、お と こ!!!同性なの!何で俺がッッ!!」
顔を真っ赤にして否定するエドワードはからかわれている事に気付いていない。
「母さん…。」
そういえばこの前、女の子でゲイが嫌いな人なんていないとか何とか…とりあえずそんな事を言ってた漫画を読んだなぁ…。などと思いながらアルフォンスは二人を生暖かく見守っている。



そんな一日の終わり。
これから一体どんなことが待ち受けるのか、未来なんてわからないけれど。