ほんなら次は○○行こうや 中



やっとのことで目的地入り口に辿り着いた一行は、お決まりの錫杖上げに挑戦したり、胎道巡りをしたりと、まさにお決まりコースを回っていった。建築様式や歴史をじっくり味わうことが元々の目的ではないため、他の同世代の観光客と同じく気楽に有名な場所や物だけを一通り見ては次に移っていく。そうして次にやってきたのは。

「清水さんゆうたらここは外せんやろ!」
「んだよここ…。」
明らかに他の場所とは少し趣が異なる場所に、新一は思わず眉をしかめた。先ほどまではどこを見ても年齢層に幅があったのに、気づけば修学旅行の中学生・高校生が大半を占めている。
「地主神社や!」
「…縁結びって…オメーは女子高生か。」
「そのツッコミはちとぬるいで。工藤。」
「誰もオメーと漫才なんかしねーから安心しろ。」
服部の嬉しそうな顔に遠い目をしていると、少しとおくから新一を呼ぶ声が聞こえた。
「新一〜!恋占いの石だって!やってみようぜ!」
「……。」
ブルータス、お前もか!新一の心境を一言で表すなら、これ以上に上手い言葉がどこにあるだろう。周りの女子高生の視線が痛い。さっさと立ち去るべきだと判断した新一はしかし、いつの間にか近づいていた快斗と服部に両脇をガッチリと捕まれ、引きずられるようにして石の前に連れて行かれてしまった。
 もうなるようになれ!と、投げやりな気持ちで二人の動向を見守ることにした新一は、少し離れた場所から二人を見ていた。視線の先では快斗が石の順番待ちをしている。
「お、黒羽やるんか!どこで転ぶか楽しみやな。」
「服部には悪いけど絶対転ばねえし、余裕で辿り着くけどな。」
女子高生に混ざって楽しそうに目を瞑って歩いている快斗は、宣言通り誰よりもしっかりした足取りで確実に先の石へと向かっていた。


「へへん!さっすが俺!余裕!」
「最悪や…黒羽に負けるなんて…いや、俺には和葉がおんねん。彼女の一人もおらん黒羽に比べたら…。」
ガックリと肩を落として嘆いている服部の横で、快斗はチチチと人差し指を気障に振っている。それが異様に様になっていて癪に障る。
「負け惜しみは醜いぜ、服部君。さて次は新一だろ。」
「絶対やらねえ。」
誰がやるかと腕を組んだ拒絶のポーズでそっぽを向いてみても、快斗にはいまいち伝わっていないようだ。何だか腹の奥が苛々する。
「えーそんなこと言うなって。やってみろよ。」
「アホか。行くぞ。」
新一が出口の方を顎で示して言うと、快斗もやっと諦めたようだ。心底残念そうに口を尖らせつつも大人しくなった。
「ちぇー。あ、なら折角だし全員でおみくじ引こうぜ。」
「…まあそれくらいなら…。」
これくらいの妥協はしてもいいだろう。恋愛系のおみくじというところに多少の恥ずかしさは否めないが、石と石の間を目を瞑って歩くことに比べるとこれくらいの恥は大したことないように思われる。


「せーの!」
快斗の掛け声で三人一度に開く。
「………。」
「俺はともかく…二人は…微妙やな。」
何とも微妙な間のあと、服部がポツリと呟いた。おみくじの結果、服部は吉、快斗と新一は凶だった。
「凶とか…ねえって。うわーテンション下がる!」
「まあこんなもんだろ。あながち外れとも言い切れねえな。彼女できねえとか書いてあるけど、当たってんじゃねーか。オメー彼女いない歴何年だっけ?」
「新一さん相変わらず辛口ですよねー。」
ぷくと頬を膨らませている快斗に苦笑し、新一は両手で膨れた頬を押してやった。ついでにこっそりと「オメーに彼女ができねえほうが俺としては嬉しいぜ?」と囁くと、快斗はポーカーフェイスはどこへ行ったと言いたくなるほど顔を真っ赤にしている。
 不意打ちが成功したことに満足したのか、新一は服部と共におみくじを枝に結びに行ってしまった。残された快斗は真っ赤な顔を隠すように頭を抱え、結局服部が呼びに戻るまでその場で固まっていたのだった。





清水寺を後にした時には既に昼時も過ぎていて、若者三人の腹は先ほどから文句を言いっぱなしである。参道に密集している飲食店に入ってもよかったのだが、にしん蕎麦がトラウマ化したのか快斗が悲痛な顔で拒否するため、無理にここで食べる必要はないと最初のコンビニまで戻ってきていた。
「ほなさっさと飯でも行こか。なんか食いたいもんとかあるか?」
これくらいの時間ならどの店でもストレスなく入れるだろう。近場の店をいくつか思い浮かべながら服部は後ろを振り返った。
「「コケーキヒー」」
見事なまでに二人がハモったのは素晴らしいとしか言いようがない。しかしながらそのハモリが美しくないのが唯一惜しまれる点だろう。そして似たような声なのに聞き分けられた自分の聴覚も素晴らしいと服部は自画自賛しながら腕を組んだ。
「は?コーヒーとケーキ?また食事とはえろお遠いもん指定してきよったな…ほな逆に絶対嫌ってモンはあるか?」
「「ケコーヒーキ」」
またも見事な不協和音。服部は大きく溜息をつくと、諦めたように首を振った。
「お前ら…もおええわ。なら二人の意見が合致するとこ行こか。」


「…で、何でハンバーガーなんだよ。」
「工藤はコーヒーが飲みたくて、黒羽はケーキやろ?ここで両方食えるやん。」
ジト目で見つめてくる快斗の視線を涼やかに受け流す様はいっそ見事だ。服部は何か不満でもあるのか、と言わんばかりの表情でニコリと笑ってトレイを指差した。
「ケーキっていうのは生クリームとかフルーツとかたくさん乗ってるやつのことだっつーの。これパンケーキじゃん。それにここ来る途中にケーキのバイキングやってる店あっただろ!ほらあの大通りのとこ!俺信号待ちのとき確認したもん!」
「は!?オメー俺の目の前でケーキのバイキングなんかしようとしてたのか?ふざけんなっつーの。オメーの味覚に俺を巻きこむな。」
「いやいや、パスタもあるし。つか新一だってたまには甘いもん食えよ、絶対ハマるって!」
「俺は嗜む程度には食ってるからいいんだよ。オメーみたいに大量消費は趣味じゃねえ。」
「妥協してくれたっていーじゃねえか。二千円もしないでケーキ大量に食えるんだぜ?夢みたいだろ。」
「ならオメーが妥協しろ。コーヒーが美味い店はケーキだって置いてるだろ。」
「新一が行くような店はケーキがメインじゃねえだろ!それに俺は大量に食いたいの。一個よりも二個、二個よりホール派なの。」
突然言い合いを始めた快斗と新一に、人の良い服部も堪忍袋の緒が切れたのか、食べかけのハンバーガーをそっとトレーに置くと、スゥと息を吸い込んだ。
「うっさいわボケ。たかがケーキでそない争うな。自分ら何歳や。ガキじゃあるまいし、文句があるなら最初からお互い譲歩しい!」
ピシャリと言い切ると、何事もなかったように食事を再開した服部がやけに恐ろしく感じる。怒られた二人は直後に顔を見合わせ小さく「お袋みてえ」と呟いたのだが、運良く服部の耳に届くことはなかった。





食事を終え、腹も満たされた三人は観光に戻ることにした。のだが、午後になり人も更に増えた道を見て、さすがにこの人ごみの中を観光して回るのは辛いと意見が一致し、鴨川で休憩をとることにした。ベンチなどないのに等間隔で並ぶカップルを冷やかしつつ、カップルごっこなどとふざけながら自分たちも同じように座ってみたりして。
数年前、コナンだったときに来た時とは異なり、事件が起こることもなく平和に過ぎてゆく。なんとなく無言でぼんやりと川を見ていると、快斗がポツリと呟いた。
「…なあ、楽しさわかる?」
「いや…わからへん。」
「つか男同士で座ったって面白くも何ともねえだろ。女の子と座って真価がわかるってとこじゃね?」
「えー彼女といたらロマンティックな気持ちになれるか…?人こんだけいるし、気になるだろ。」
軽く周りを見渡せば、カップルだけでなく多くの観光客や家族連れが簡単に眼に入った。おまけに橋の上から通行人にじろじろ見られたり写真を撮られたりしている。確かにこれでは二人の世界にも入りづらいだろう。と思ってしまうのは男だからなのだろうか。
「それ以前に水の音がうるさすぎて声とか聞こえねえけどな。」
「せやなあ…一体何の伝統やろなあ。前工藤と来たときもおったよなあ…。」
「ああ相変わらず変わんねえ光景だな。真夏と真冬まで同じ光景なら狂気の沙汰だぜ。」
「残念やけど一年変わらずこの光景やで。」
「わっかんねえ…。」
川の前に並んで座り議題に首を傾げている三人は、実は周囲から注目の的だったなどと知る由もない。