ほんなら次は○○行こうや 下



 カップルごっこに早々に飽きた三人は、川上に向かうことにした。人が少なく、渡れる程度に川の中に石があるため、ふざけるには最適の場所である。三人は早速水切りの腕を競ったり、川を渡ったりと、童心に返って遊んだ。周囲には同世代と思わしき学生の姿がチラホラ見られ、皆楽しそうにそれぞれのグループでバーベキューをしたり楽器の練習をしたりと、思い思い好きな事をやっているため特に恥ずかしいとも思わない。
「うわ、やめろって!マジふざけんな!だから押すなって!濡れたらどうすんだよ!」
「ははははは!工藤の服が濡れたら俺んちきぃや。こっからやと結構近いで。」
「よかったじゃん新一。これで心置きなくびしょびしょになれるぜ。」
「バーローお前ふざけんなよ!むしろ快斗が濡れろ!」
ふざけ合いながら押し合って。お互いが川に落ちない程度に加減はしているけれど、焦るものは焦るのだ。
特に悪ふざけの塊のような快斗と服部に強力なタッグを組まれると、さすがに新一の分が悪くなる。さてどうしたものかと思案していると、思わぬ伏兵が現れた。
「お。黒羽、そっち見てみぃ。」
「へ?…う、うわああああああああああああ!」
突然の快斗の悲鳴に驚いて、なぜか新一が川の中に落ちかけた。すぐに体勢を立て直し事なきを得たのだが。幸い快斗も服部も新一のほうを見ていなかったため、落ちかけたということは新一の中だけの秘密である。
「は?何叫んでんだよ。」
何事もなかったかのように二人を見ると、涙目どころか本気で涙を流している快斗とニヤニヤ笑いながら快斗の頭を押さえて水面に近づけている服部が目に入り脱力した。
「は!跳ねた!ひぃいいい殺される!ちょ、む、マジ無理だって!だから服部!頭押さえんなって!ひ!近い!近い近い!」
「ショック療法やって。黒羽もええ加減慣れんとなあ。」
チラリと水面を覗き込めば、キラキラと光を反射して泳いでいる魚の群れが案の定目に入った。気持ちよさげに水中を泳いでいる姿にはいっそ微笑ましさすら覚えるというのに、阿鼻叫喚の地獄絵図を一人で表現している快斗には恐らく魚たちが鬼か悪魔にでも見えているのだろう。
「魚かよ情けねー…。ンなもんにマジ泣きしてんじゃねえよ…。」
ははは、と乾いた笑いと共に呟けば、涙で潤んだ瞳がキッと何かを訴えてきたような気がしたが、新一は気付かない振りをして誤魔化した。





日も傾いてきた頃、新幹線の都合もあるため三人は京都駅へと向かうことにした。とは言ってもまだ時間的に早く、夕食を摂るにも微妙な腹具合だ。さてどうするか、と地下街を覘いてみたが、女性向けの服飾ばかりを扱う店が殆どを占めているため男三人で歩くのは少しばかり躊躇われる。
早々に地上に出て観光局の用意したパネルを見ていると、快斗が服部と新一の肩を叩いた。
「なあ、アレ登らねえ?」
妙に幼い表情で指差したものは京都タワーだった。



「すっげ!低いけど高い!」
窓に張り付いて興奮気味に頬を紅潮させている快斗は、一体何歳なんだといいたくなるほど幼く見える。少し離れた位置で壁にもたれて見守っていた新一と服部は、顔を見合わせて苦笑した。
「…意味わかんねえ…オメーもっと高いとこ行きまくってンだろーが。」
少しだけ含みを持たせて言うと、快斗は新一だけに見えるようにニヤリと笑い、白い気配を一瞬だけ発し、すぐに黒羽快斗のそれに戻った。話を振ったのは新一だが、怪盗の空気を出されるとは思ってもみなかったため、驚きに息を呑んだ。
「いやいや、それはそうだけど、な、高いとこって興奮しねえ?」
「何だっけ…バカと何とかは高いところが好きなんだよな。」
白の気配に一瞬でも動揺した自分が妙に悔しくて、わざと言ってやると快斗はへにゃりと眉を下げた。
「それさ、煙と何とかじゃねえの?酷えー!」
唇を尖らせて抗議する快斗が何だか面白くて、ついでに悔しくて。新一は突き出されている快斗の唇をむにと摘んでやった。まさかの行動に「わ!」と本気で驚いている快斗を満足げに見ると、新一は服部のほうへと向かった。少し離れた位置で服部は備え付けの双眼鏡を熱心に覗いている。
「なんか面白いもんでもあったか?」
後ろから声をかけると、服部は一瞬だけ双眼鏡から目を離して新一を確認すると、再びレンズを覗き込んだ。
「お、工藤。いや、特にないで。俺の家見えへんしな」
「自分ち見てどうすんだよ。」
「いや、こういうタイプの双眼鏡見たらつい家とか学校とか見えるか確かめたくならへん?」
「わっかんねえ…その感覚。」
「さよけ。黒羽やったら同意してくれる思うんやけどなあ。…しっかし何も見所のない塔やと思わへん?」
「え、十分じゃね?」
下の階に行けば青色の光に照らされたバーのスペースまであり、何もないというほどでもないように思われる。それにこの塔の配色自体が白とオレンジなのだから、それ自体が見所と言ってもいいのではないだろうか。そんなことを考えていると、服部が不満げに首を振った。
「いやいやいや、我らが通天閣はごっつうおもろいで!新今宮からタワーの展望台行くまでナンボのツッコミどころがある思うてんねん。」
「えー…大阪と一緒にすんなって。」
「足組んだ招き猫やろ、ビリケンさんの小ネタやろ、外のミラーボールも中々珍しい思うわ。」
「聞いちゃいねえよ…。」
目をキラキラさせながら通天閣に思いを馳せている服部に二人は溜息をついた。





「ほなまたな!今度は北の方にも行こや。」
「おー!世話んなったな。楽しかったぜ!東都にもまた来いよ!」
「おおきに。楽しみにしとるわ。お、そろそろ新幹線来るんとちゃうか?ホーム遠いしそろそろ向かいや。」
電子パネルを見上げて言った服部に、快斗と新一も頷いて地面に置いていた荷物を手に取った。
「そうだな、そうするわ。んじゃな!」
「じゃーな!」
「ほななー!気ぃ付けて帰りや!」
改札を抜けて雑踏にまぎれた二人を見送ると、服部はくるりと踵を返した。


名古屋で停車している時、二人の携帯が同時に震えた。
「ん?メール?」
「俺も…あ、服部か。」
お互い顔を見合わせてメールを開く。
「……わ。」
「げ。」
「気づかなかった…。」
「ははは…。アイツのことだから他意はねえんだろうなあ…。」
遠い目をして携帯を閉じた新一の横で、快斗は素早く画像を待ち受けに設定した。
メールに添付されていた写メには、鴨川で撮られたのだろう、快斗と新一が隣同士に座って水面を見つめている後姿が収まっていたのである。










From 服部平次
Sub 無題
添付ファイル一件

写メって忘れとった写真があるから添付するわ
自分ら仲よすぎやろ
見とってむっちゃおもろかったで
ほな気ぃつけて帰りや

―END―