ひと夏の



ジリジリと容赦なく身を焦がす太陽に辟易しながら、少しでも日陰を探して辺りを見渡した。しかしほぼ真上から照りつける光のために、周囲には人が入れそうな影など見当たらない。そうこうする間にも汗が玉のように浮かんでは身体を伝って、地面に小さな跡を残していく。
「あちぃ…」
小さく呟いて、もはや汗すら消え去ったペットボトルに口を付ける。温んだスポーツドリンクの濃すぎる甘さに余計に喉が渇いた気がした。


ペットボトルがすっかり空になる頃、古ぼけた軽トラが苦しそうな音をさせながら目の前で止まった。運転席から待ちわびた顔が覗く。
「エース!待たせたな!」
「ジジイ!おせーよ」
「なんじゃその口は。とにかく乗れ」
油と土の匂いがする助手席はお世辞にも乗り心地がいいとは言えない。何十年運転しているのか知らないが、ギアチェンジするたび車体は小刻みに揺れ、エンジンは苦しそうな音を立てている。
けれど、のんびりと田舎道を走るにはちょうどいいのかもしれない。窓を全開にし、流れ込んでくる心地よい風に身をまかせながらエースは久々の田舎の景色を堪能した。


「そうじゃ、お前に紹介したいヤツがおる」
「あー?また嫁候補?だから俺お見合いは興味ないって」
何年か前、同じように帰省したエースは、まだ高校生だと言うに突然見合いをさせられたのだ。恐ろしいことに相手方の女性も見合いの話が伝わっておらず、縁談はその場で破談になったのだが。祖父ガープを問い詰めると、孫がいつまでたっても一人身だと言う、悩める爺同盟が地域で組まれていたらしい。
「誰が嫁じゃと言うた。ワシの孫じゃ」
「……は?」
エースは眉をひそめた。エースの知る限りガープの孫は自分一人しかいない。その自分だって厳密には孫ではなく、ガープの友人の子どもという立場なのだ。幼いころに両親を亡くした自分を引き取り育ててくれているため、世間的には孫ということにしているが、あくまでも籍は別にある。
「ワシに息子がおるのは知っとるな」
「ああ」
写真でしか見たことはないが、目つきの鋭い黒髪の男だった。何の仕事をしているのか知らないが、エースの知る限り、この地に戻ってきたことはない。外国で働いているらしい。
「ソイツがいつの間にか息子をつくっておってな」
ガープは呆れたように溜息をついた。
「年はエースの3つ下じゃ。突然の兄弟に戸惑うかも知れんが、仲良くするんじゃぞ」
「は?」
さらりと落とされた爆弾に、エースは開いた口を閉じることさえ忘れてしまった。



家に着くと、縁側に腰かけていた少年が目に入った。
「じいちゃん!」
「おお卵は取れたか?」
「ししし!こんなに生んでた!…エース?」
嬉しそうに脇に置いた卵を見せていた少年は、エースに気付くと首を少し傾けて小さな声で名前を呼んだ。
「あ、ああ」
「おお、ルフィ、こいつがエースじゃ。エース、こいつはルフィ。お前の弟じゃ」
何とも簡素な紹介を受け、エースは戸惑いながらルフィに頭を下げた。
「お前俺の兄ちゃん、か?」
「…多分な」
「そっか!兄ちゃんか。しししッ!俺ルフィってんだ。よろしくな、エース!」
そう言って笑った顔はたった3歳しか違わないとは思えないほどに幼かった。