Paper Gangsta 3



 リボーンにとって予想外だったのは、綱吉の適応力だった。告白を受け入れて貰えなかったのだから諦めるだろうと思っていたリボーンの予想に反し、綱吉は長くリボーンを想い続けた。最初の頃こそ、リボーンを見るたびに苦しそうな顔をしていたのだが、いつしかそれもなくなり、だからと言ってリボーンを見る目から熱が消えることもなく。綱吉は報われない想いを抱えながらも、想い続けるという選択をしたのだと気付いた。
 しかも悪いことにそれを隠そうともしていないのだ。もちろんこれまで通り、第三者がいるところではそんな気配は微塵も感じさせない。しかし、一旦リボーンと二人きりになると、その瞳には熱と、明らかな欲が映し出されるようになったのである。想いを告げたことで、自分の気持ちを隠す必要がなくなったと開き直ったのだろう。性質の悪いことに、綱吉はリボーンを誘うような視線を、それとわかった上で使っている。
 リボーン自身が教えた視線の使い方、言葉の選び方を違わず自身のものにしてしまった綱吉は、そのテクニックを駆使してリボーンを誘惑している。それに応えられたらどれだけ楽だろう。けれど、それは綱吉にとって何のメリットにもなりはしないのだ。
 伝えることのできない想いを抱えたリボーンは、綱吉の痴態を想像しながら、自身を握る手の速度を速めた。
 

 無遠慮に内線が、一度だけ鳴った。
出なくてもわかる。綱吉が身を整え、自分を呼びだす準備が整ったのだ。クローゼットから新しいスーツを取りだし手早く着替えると、リボーンは自室を後にした。

 ノックもせずに扉をあける。部屋の主は、恐らくエスプレッソであろうカップを二つ持ち、テーブルに運んでいるところだった。
「リボーンお帰り。さっきは変なところ見せてごめん。」
さすがに極まりが悪かったのか、少しだけ目をそらしながら謝る綱吉からカップを受け取り、リボーンは満たされた黒い液体に口を付けた。自分好みのエスプレッソに思わず口元が綻ぶ。
「まったくだ。俺の気配を察知して誤魔化すくらいの芸当が欲しいモンだな。」
「いや、リボーンの気配なんてわかるやついないって。」
「さっきは別に気配なんて消してなかったぞ。どんな時だって気配には敏感になりやがれ。久々にねっちょりお仕置きコースだな。」
「ねっちょりは謹んでご遠慮させていただきます。」
「家庭教師様の特別講習が受けれねえってのかダメツナ。」
「お前の特別講習イコール俺死ぬじゃん。今結構忙しいの。仕事に穴開けらんないって。」
そう言って振り返った綱吉の机には大量の書類がいくつかの山を築いていた。
「フン。あれは忙しい奴のすることじゃねェと思うぞ。」
「るさいな。溜まってたの。たまには抜いとかないと、夜とか朝とか困るだろ。」
頬を赤らめ、唇を尖らせていた綱吉は、ふと何かを思いついたようにニヤリと笑うと、囁くように言った。
「それとも、夜リボーンのとこ行ってもいいの?」
「…ッ、ガキが一丁前に盛りやがって。」
ガラリと変わった雰囲気に一瞬呑まれかけ、嫌な汗が背を伝うのを感じた。苦し紛れに睨みつけると、既に普段のそれに空気を変えた綱吉が、澄ました顔でカップに口を付けていた。
「…溜まってるなら愛人のところに行け。生徒の性欲処理は家庭教師の仕事の範囲外だぞ。」
「手厳しいヤツ。…ところでリボーン、着替えた?」
「ああ、よくわかったな。」
先ほどまで着ていたスーツとは殆どデザインも色も変わらないそれを選んだというのに。リボーンは綱吉の指摘に素直に驚いた。
「だってリボーンのことはいつだって見てるから。」
そう言って笑う姿に、心は掻き乱される。




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