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発芽
強制的というか、誘拐まがいに連れてこられた特戦部隊。いつだって逃げ出すことしか頭になくて、何度も何度も脱走を図った。そのたびに見つかって、阻止されて、いつも悔しい思いをしてきた。
最初は恐怖と憎しみだけが自分を支配していた。それがいつしか諦めと、受容に変わり、気がつけば。
こんなトコ逃げ出してやると、リキッドは荷物をまとめて偵察用の小さなヘリに向かっていた。自分が逃げだことにまだ皆は気づいていないはずだ。今日こそ逃げ切ってやると息巻き、ヘリに乗り込んだ瞬間、いるはずのない人の声が聞こえた。
「よおリキッド、今日はやけに遅いじゃねぇか」
「〜〜ッ!」
これで何度目になるのか、リキッドが逃げ出そうとするたびハーレムが先回りしてリキッドの行く手を阻むのだ。だからと言って逃げ出そうとしていたリキッドを咎めるでもない。ただ、リキッドを「散歩」に連れ出すだけだ。
「じゃ、いっちょ夜間飛行と洒落込もうぜェ!」
子どものように目を輝かせながら、ハーレムはヘリを発進させた。
実のところリキッドはこの時間が嫌いではなかった。絶対に本人に言ってやるつもりはないが、恐怖の対象でしかなかったはずの上司が、何かを破壊するでもなくただ無邪気に自分との時間を過ごしている姿はとても新鮮で、恐らくそこが彼の魅力なのだろうと思っている。
ただ怖くて憎いだけならよかったのに、なぜこんなにも惹きつけられるのだろう。
「どうした?俺の顔に何かついてるか?」
「あ、いや、何でもないっす」
「んな思いつめた顔してるとおっさん襲っちまうぞ」
「へっ?」
言葉は軽く、けれどどこかゾクリとするような響きを持ったそれに、リキッドは驚き目を見開いた。
「ばーか、本気にするなっつーの童貞」
「なっ!守りたくて童貞のままいるわけじゃねェよ!」
暴言を吐きながら頭をくしゃくしゃと撫でてくるハーレムにむっとしたリキッドは、反抗心から敬語もどきを使うのも忘れ反論した。リキッドのタメ口を特に窘めるでもなく、ハーレムはにやりと笑い。
「ほぉ、チャンスがあればいいんだな?なら次の街付いたら女でも買うか?」
「ッ!!!」
「冗談だっつーの。ンな顔するな」
これだからこの上司には勝てないのだ。いつもこちらがドキリとするようなことを軽く言って、動揺を誘うだけ誘うと、それ以上追及するでもなく上手くかわしていく。
そうこうするうちに長いようで短い「散歩」は終わり、また次に逃げ出したくなる時までただの上司と部下になる。
いつだって本気でここから逃げたいと思っているはずなのに、ハーレムとの時間を楽しみにしている自分がいて、もしかしたらハーレムも少なからず自分との時間を楽しみにしているのではないかと期待する自分がいる。
この気持ちが一体何で、どこからくるものなのかよくわからないけれど、大切にしていきたいとリキッドは思った。
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