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なぞなぞ
上司と部下以外の名前を付けるとしたら、年の離れた友人、とでも呼べばいいのだろうか。
友人というには少々上下関係がしっかり根付いているが、体育会系で仲の良い先輩後輩関係とでも考えれば、あながち間違いとも言い切れないだろう。
リキッドは強制的に連れてこられたバーのカウンターで、ほとんどジュースのようなカクテルを舐めながら、ぼんやりと隣に座ったハーレムを見た。
バーテンの腕の振るいどころがどこにあるのか、少しばかり気の毒に思ってしまうほどにハーレムの飲む酒は酒瓶からグラスへ直接注がれ、ほとんど間を開けず体内に収められている。
「おめーも飲むか?」
目の前に差し出されたグラスの中身は先ほどからハーレムが飲み続けている強い酒だ。思わず受け取ってしまった手前そのまま突き返すわけにもいかず、リキッドは恐る恐る匂いを嗅いでみた。しかし強いアルコールのそれと、鼻に残る独特の甘ったるいような香りに気分が悪くなるのを感じ、そのままハーレムに押し返した。
「なんだリキッドちゃんはお子ちゃまだな」
「こんなの飲むなんて人間じゃないっすよ。うー…まだ鼻に残ってるんすけど」
「け。この香りがいいんじゃねえか」
リキッドは代わりに差し出された水を一口飲むと、一心地ついたように息を吐きだした。ふと隣を見ると、先ほど返したグラスをハーレムは何らためらうことなく煽っていて、下戸とうわばみの違いをまざまざと見せつけられたように感じる。
前言撤回。友人、という呼称はこの関係にふさわしくない。やはり上司と部下、が一番自分たちの関係を適切に表現していて、それ以上も以下もないのだろうと思わされる。
けれどどこかしっくりこないのだ。だからこそ上司と部下以外に名前を探していたのだが。
「おうリキッド、おめーさっきから何考えてやがる」
「あ、いや、何でもないっす」
「ああ?呆けた顔して人の顔ジロジロ見やがって」
「気のせいっすよ、おっさんの顔見たって嬉しくねえもん」
まさか自分たちの関係に付ける名前を考えていましたなどと言えるはずもなく、リキッドは誤魔化すように唇を尖らせた。
「……チェック」
ハーレムは何か言いたそうに口を開いたが結局それは音にならず、行き場をなくした音声は代わりにバーテンへ向けられたのだった。
大体こんなにも年の離れた関係に名前を付けようとすること自体が間違っていたのだ。上司と部下で一応の解決を見たのだから、それ以上の探索は無意味に思える。というよりも、これ以上考えてはいけないと頭のどこかで警鐘が鳴っているのだ。浮かびそうになっては、意識される前に消えていくそれの追跡を諦め、リキッドはバーの重々しい扉をゆっくり引いた。
扉の向こうにはいつからいたのか特戦部隊の面々が待機しており、出てきたハーレムを迎えている。
「おうおめーらワリィな。愛してるぜー!」
用意された車に上機嫌で乗りこむハーレムの背中を見つめながら、聞こえた言葉に引っかかるものを感じつつも、リキッドはそれを特に気にするでもなく続いて車に乗り込んだ。
「さっさと気付けよチェリーちゃん」
ぽつりと溢された呟きはエンジンの音に掻き消されたのだった。
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