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おねだり
リボーンが凄く楽しそうに笑っている。あの笑い方は危険だ。間違いなく厄介事を持ちこまれるタイプの笑い方だ。逃げろと超直感が告げている。
だけど。
「…何、どうしたのリボーン?」
こうやって尋ねてしまう己は何て愚かなんだろう。最早これはアレだ、刷り込みってやつだ。
「ん、ちょっとな」
にやにや、にやにや
ツナちょっと来い、と呼ばれるままに近づく。警戒はとうに放棄した。どうせリボーン相手に警戒したって何の意味もないことは長い日々の中で身にしみてわかっている。
「ツナ、俺は今日誕生日だぞ」
「あ、うん。そうだね。おめでとう」
ものすごく偉そうに言われた言葉に肩の力が抜ける。自分と一日違いの、しかも自分の家庭教師様の誕生日なんて忘れようたって忘れられない。もしかして忘れていたら何かとんでもなく恐ろしいことでもされたのだろうか。
「だからツナにプレゼントを二つ要求するぞ」
「一応用意してるんだけど…それ以外ってことだよな」
「わかるようになってきたじゃねえか」
「まあ長い付き合いだし。で、何が欲しいの?言っとくけど高いものは無理だからね。俺のできる範囲で言えよ」
「お前に金目のモンなんて要求しねえぞ。じゃなくて…一つは立派なボンゴレの十代目になることだぞ」
「またそれかよ、悪いけどそれは叶えられないよ。俺はボスに何てならないからな!」
殆ど反射のように却下すると、リボーンはあからさまに溜息をついて肩をすくめた。全くもって子どもらしくない仕種なのに妙に様になるのが恐ろしい。
「こんなに謙虚でお前に有利な願いを却下するとはいい度胸だ」
「どこがだよ!大体それお前の仕事じゃねーか!」
ツッコミを入れて気付く。これはいわゆる墓穴ってやつだ。
「まあな。ツナ覚えとけよ、俺は仕事を未遂に終わらせた事はねえんだ」
案の定、にやりと笑って言われたそれに苦笑いしか返せない。口は災いの元とはよく言ったものだ。
「そしてもう一つは…」
続けて言われた言葉に心臓が跳ねた。
「ツナそんなに遠くじゃ言いにくいだろ。もっと近くに来い」
もうひとつあることなんてすっかり忘れていた。嫌々ながらも近づくと、リボーンの隣に座るよう指示される。大人しく座って何をされるのかとドキドキしていると、リボーンが綱吉の膝によじ登り、綱吉の顔、正確には耳に顔を近づけていく。
耳に口をくっつけるようにして言われたそれに目を見開いて綱吉は叫んだ。顔は茹でダコのように真っ赤だ。
「な!そんなもん要求すんなよ…なんの嫌がらせだよ!」
「何言ってんだツナ。簡単だろう」
超直感が警鐘を鳴らしていたのはこれだったのかと思ってももう遅い。リボーンからプレゼントの内容を聞いてしまったのだから。
曰くその内容は、リボーンを抱きしめ目を見つめてにっこり笑い、誕生日おめでとうと言いながら頬にキスしろというものだ。
抱きしめるのはまだいい。普段ランボやイーピンを抱っこしているし、一度くらいリボーンを抱きしめてみたいと思っていたところだ。そのついでにおめでとうぐらい簡単に言える。にっこり心からの笑みだって浮かべることは容易い。ただその後が問題だった。
キス!
この家庭教師は頬にキスをしろと言うのだ。
しかも彼のニュアンスでは間違いなく綱吉からしなければならない。
頬にキスくらいと思わないでもないが、それでもファーストキスもまだの綱吉にしてみればものすごく高いハードルなのだ。
「どうせビアンキや母さんから、もしかしたらユニやハルからも貰うだろ」
「当然だ。俺を誰だと思ってる」
偉そうに踏ん反り返る赤ん坊を、綱吉は呆れたように見つめた。
この部屋を、家を一歩出れば可愛い女の子たちからいくらでも貰えるだろうに、なんだって自分にそんなものを要求するのか。
「で、くれるのかくれねえのか」
「どうせ俺に拒否権はないんでしょ」
「当然だぞ」
「だったらンなこと聞くなよ…」
綱吉は思い切り脱力し、赤ん坊を見つめた。
早くしろと目の前の尊大なお方は胸を張っていらっしゃる。きっと彼はプレゼントの内容なんて実際はどうだってよくて、自分が困るのを楽しみたいのだろう。だからこういう無理難題を吹っ掛けるのだ。
キスくらい、キスくらい…意識すればするほど緊張して嫌な汗が背中を伝う。いい加減焦れたのか、リボーンが遅いと銃を取り出した。慌ててそれを下げさせる。
「ちょ、たんま!心の準備させて!」
わたわたと暴れる教え子はいつまで見ても飽きない。リボーンは大人しく愛銃を下げると、にやりと笑って。
「俺の誕生日が終わるまでに腹括れよ」
その言葉が聞こえているのかいないのか、綱吉は百面相を繰り返していたのだった。
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