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奪っちゃったー
「ツナ、俺を信じろ。お前を絶対に優秀なマフィアのボスに育て上げてやるからな。あと誕生日おめでとうだぞ」
「えっ…そんなこと俺望んでないってば!っていうか付けたしのように祝うなよ!」
誕生日の朝、息苦しくて目を開けたら家庭教師様が自分の胸の上に座り込んで顔を覗き込んでいた。
開口一番告げられた言葉があまりにも彼らしくて、綱吉はツッコミを入れつつも笑ってしまう。この一年もきっとリボーンからスパルタ過ぎるボス教育を施されるのだろう。それが綱吉にとって最高のプレゼントだと本気で思っている節のある家庭教師様から逃れるすべはない。けれど本心から嫌ではなかった。
もちろん十代目になりたくはないれど、リボーンと過ごす怒涛の日々は苦しくも楽しいから。間違いなく充実する日々が約束されているのだ、少なくともこの一年は。それが嫌なわけがなかった。
リボーンは赤子の身体になってから何十年もそのままで生きてきた。自分と同世代の同業者たちが歳をとり、灰になってしまっても、その子孫が成人しても、彼の姿は変わらなかった。
気が狂いそうな永い時を生きなければならないこの呪い。例え死んでしまっても、おしゃぶりさえ無事ならそこから再生することができる。
永い時を思えば、綱吉との時間もほんの一瞬の出来事になるのだろうか。考えれば考えるほど苦しくなる。だから、この一瞬一瞬を大切にしたい。
リボーンにとって綱吉との時間は、永い時を生きていくための大切な時間なのだ。
何十年、何百年後かには綱吉と過ごした時間も過去に起きたほんの僅かな時間のように感じるのだろうか。それならば、今はこの時間を精一杯充実させておきたかった。
「リボーン?」
「…どうした」
「や、急に黙ったから。てゆかそろそろどけよ、いい加減苦しい」
少し息苦しそうに喋る綱吉に、なんとなく嗜虐心が湧きあがる。
「いいじゃねえか、昨日あんなことした仲だろ」
ニヤリと笑って、わざと耳元に息を吹きかけるように言ってやれば、綱吉はものすごくわかりやすく動揺した。
「ばっ!あれはお前が無理やり…!」
「必死な目で顔真っ赤にさせて可愛かったぞツナ」
ちゅ、と可愛らしい音を立てて頬に唇を寄せる。一瞬目を見開いた綱吉は、しかし。
「もーやめろよ!今日俺の誕生日だろ!ちょっとくらい優しくしようとか思わないのかよ!」
昨日の動揺はどこへやら、自分からしなければ別に気にならないとでも言うのだろうか。リボーンの行動に期待したほどの動揺を見せるでもなく、得意のツッコミを入れるでもなく、リボーンに文句を垂れている。
綱吉の混乱した姿を期待していたリボーンにしてみれば肩すかしをくらったようなものだ。その反応がどうにも気に食わなくて。
「しょうがねえな…ツナ…」
「へっ……………え?」
「ふふん。ごちそうさま、だぞ」
「うああああああああああああああああ何やってんだお前!!!!!!!!」
「昨日のお返しだぞ」
いけしゃあしゃと言ってやると、綱吉は顔を真っ赤にさせて布団を抱えて悶え始めた。これぞリボーンの期待していた反応だ。己の仕事に満足しながら、見せつけるように自身の唇を舐めると、ばっちり見てしまったのだろう綱吉がギャアと叫んで布団の中に潜り込んだ。
「ばっ!俺はほっぺだったろ!な、なんでく…いやも、えええ俺のファーストキス!!!!」
涙目できゃんきゃん叫ぶ綱吉をもう少し見ていたかったが、タイムリミットだ。リボーンはさも今気付きましたというように時計をわざとらしく見て、綱吉に尋ねる。
「ところでツナ、余裕ぶって混乱してる時間なんてあるのか?」
「へ?ってああああ遅刻する!」
時計を確認した綱吉の顔が赤から青に見事に変わった。最早先ほどの出来事は記憶の彼方のようだ。驚くほどのスピードでパジャマを脱ぎ棄て制服をひっかけるとバタバタと一階に走っていった。
「ママンがおにぎり作ってたぞ。それ持っていけ」
階段を走る後ろ姿に声をかけてやると、叫び声の合間に了解の返答が返ってくる。
「かあさあああああん!おにぎりどこ!俺遅刻する!!!」
「あらツっ君、おはよう。今日はずいぶんお寝坊さんね。おにぎりはそこにあるからとりあえず顔洗ってらっしゃい」
バタバタと走り回る綱吉と、のんびりした奈々の声が階下から聞こえる。
あの様子ではあと五分もしたら家を飛び出すだろう。それまでにこの頬の熱が下がればいいのだが。
珍しく顔を真っ赤に染めた家庭教師はソフト帽を目元まで押し下げ、まだ綱吉の体温が残るベッドに寝転んだ。
きっとこの二日間のことは、これから何十年、何百年経っても忘れないだろう。だって、綱吉の初めてを貰って、奪った日なのだから。
2011年
リボーン・綱吉ハッピーバースデー!!!!
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