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いちばん欲しいもの 下
黒羽の一世一代の告白から三日が過ぎた。世間はいつの間にか大型連休に突入しており、それをいいことに黒羽は一日中部屋の中に引きこもって過ごしている。携帯の電源はあの日から一度も入れていない。かろうじてマジックの練習だけは欠かさず行っているが、集中力に欠けていることは誰よりも彼自身が痛感していた。
「快斗、寝てるの?」
夕方になり母親が黒羽の部屋を訪れた。どことなく声が浮かれているように感じるのは気のせいだろうか。
「起きてる…なに?」
黒羽はベッドから起き上がると、じっと母親の様子を観察した。やはりどこか興奮しているように感じられる。
「さっきそこで工藤君に会ったんだけど、あんた携帯の電源切ってるんだって?連絡取れないって工藤君困ってたわよ」
「げ。余計なこと言ってないだろうな」
思いがけない言葉に黒羽は眉を寄せた。
「余計なことも何も…息子がこないだから引きこもってますなんて言えないわよ。で、工藤君から伝言。こないだのことで話がある。四日、時間は問わないから家に来てくれ、だって。あんた何したの?」
「…四日?」
野次馬の如くウキウキしながら問いかけてくる母親の言葉は、既に黒羽の耳には届いていなかった。
五月四日。その日はゴールデンウイークの終盤、祝日で言うとみどりの日。そして…工藤新一がこの世に生を受けた日でもある。
工藤邸の門前に立った黒羽は大きく息を吐いた。告白をしたあの日からたった数日しか経っていないというのに、既に何ヶ月も訪れていないような懐かしさに襲われる。
「…うし」
腹の中で小さく気合を入れると、黒羽はインターフォンを鳴らした。
「はい」
警戒しているような少しばかり硬い声がインターフォン越しに聞こえた。たったこれだけで涙が出そうになるほど嬉しくなる。
「あ…俺…黒羽だけど…」
「…今開ける」
音声がプツリと途切れ、ほぼ同時に門の鍵が開いた。
先日と同じくリビングに通された黒羽は、無言で正面に座っている工藤をそっと伺い見た。工藤はむっつりと眉を顰め、腕を組んで目を閉じている。明らかに不機嫌そうなその姿でさえ、黒羽の心を高鳴らせるには十分なのだ。直接声が聞ける、数日前まで当たり前だったことだが、今の黒羽にとってはとてつもなく幸福なことのように感じられる。喜びで笑い出しそうになる顔を必死で抑え、黒羽は工藤が口を開くのを待った。
「…オメーさ」
そしてその時は唐突に訪れた。
「何で俺なんだ?」
「え…」
「中森さんや小泉さんみたいな美人が近くにいるのに、何で同性の俺なんだ?」
「……」
「俺は女じゃない」
「そんなのわかってる」
「じゃあなんでだよ。オメーに男色のきらいがあるとは思えねえけど」
「そんなの知らねえって。俺だって戸惑ったんだ!何でオメーみてーな同性のこと…好きになるんだって…」
「…本気なのか?」
「気持ちだけは疑って欲しくない」
「…そうか」
「うん」
「…俺、オメーに告られてから考えたんだ」
「……」
「俺は黒羽が好きだ。でもあくまでそれは友人としてであって、恋愛対象としてではない。それはオメーもわかってるだろ?」
「…ああ」
「けど、まだ確信は持てねえけど、オメーに告られてから、確実に俺の中でオメーの存在が変わったんだ」
「うん」
「もしかしたらこれは気の迷いかも知れねえし、若気の至りってヤツかも知れねえ」
「……」
「でも、若いうちの過ちは今しかできねえんだよ…だから」
工藤は更にうつむき、何かに耐えるように拳を握り締めた。そして顔を上げた、次の瞬間。
「だから俺、オメーと…黒羽と……付き合いたい!」
何を言われたのか一瞬理解できなかった。工藤は顔を真っ赤に染め上げ、肩で息をしている。呆然と先ほど言われた言葉を思い出す。
「え…それって…」
「バーロ!言われなきゃわかんねえのかよ!俺もオメーのことが好きなんだよ!友達としてだけじゃなく!」
今度こそ理解できた。黒羽は目を見開き、気が付いた時には目の前の大切な存在を強く抱きしめていた。
「なあ…何で今日だったんだ?」
「バーロォ…誕生日なんだから俺が一番欲しいものもらったって構わねえだろうが…」
プイと横を向いた工藤は首まで真っ赤に染まっていたのだった。
新一ハピバ!2010 滝上
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