不用意にサインをしてはいけません



その日は朝から快晴で、しかしながらエドワードにもアルフォンスにもその気候を楽しむ余裕は無かった。
なぜなら、二人が乗らねばならない汽車の時刻が20分後に迫っていたからだ。
本来なら駅で汽車の到着を待っていてもおかしくはない時間であるはずなのに、二人は未だ東方司令部の執務室にいた。

「大佐ァー早くしてくれよ!俺らもう行かなきゃいけねぇんだよ!!!」
まるでチンピラのような物言いで、苛々とエドワードは文句を垂れる。
「そうですよ大佐。僕らの乗る汽車が不定期運行だって知ってますよね?これに乗り遅れるわけにはいかないんです。」
普段温厚なアルフォンスまで丁寧な口調はそのままで、その言葉の端々に隠そうともしない棘を含ませる。
「ああ…後少しなんだ…少し待ってくれたまえ。君たちだってこの紹介状がないと意味が無いことくらい知っているだろう?」
ロイは手元の紙から視線を逸らさず、二人に答えた。


今ロイがしたためているものは、エドワードたちがこれから訪れる予定の貴族へ宛てた紹介状だった。滅多なことでは他人を信用しないというその貴族は、しかし、どういった経緯かロイの知り合いで。そのことを知ったエルリック兄弟は二日前にロイの元へ訪れた。
だが、生憎とその二日間司令部内は、数日前に市内で起きた小規模テロのために皆が走り回っており、それはロイも例外ではない。
いくらエドワードが傍若無人だからと言っても、疲れきったロイを前に新たな仕事を押し付けることなどできず。司令部内が落ち着くまで軍内の図書館に篭っていた。
そして粗方落ち着きを取り戻したのが今日である。否、正確には昨夜遅くなのだが、その時間に兄弟が司令部にいるわけも無く。朝一番でホークアイから連絡があったのだ。

これで出発できると兄弟は喜び、駅に切符を買いに行くと、二人が乗らねばならない汽車は不定期運行で、しかも次の便は50分後だった。
慌てて司令部に走り、ロイに用件を告げたのが出発40分前。
そしてロイが紹介状を作成し始めてから20分ほど経ったのが、先の会話である。
本来なら紹介状作成に20分もかからない。しかし、今回の相手が相手なだけにロイもその文面に気をつけねばならなかったのだ。


「さて、と。後はインクが乾くのを待って…封をすれば終わりだ。」
カランとペンを置くと、ロイはその紙を満足そうに眺めた。
「!」
苛々と時計を見つめていたエドワードはその言葉にバッと反応する。
「さんきゅ大佐!早くそれくれ!!」
あと5分以内に司令部を出なければ間に合わない。エドワードは焦ったようにロイに手を差し出す。
「まあ待て鋼の。君のサインが必要なちょっとした書類があってね。…ここに君のサインをくれないか?」
紹介状の代わりに先ほどまでロイが使っていたペンと、何かの書類を差し出すと、空白を指差した。
「?なにこれ。俺急いでるから今度じゃダメなのか?」
焦りつつもエドワードは疑問を口にする。
「いや、君のサインがあればそれでいいんだ。時間はとらせない。ここにサインを。」
ロイはにこやかに笑うと、先ほどしたためた紹介状を丁寧に折り、封筒にしまう。
「兄さん!あと3分!!!!」
滅多にないアルフォンスの焦った声が聞こえる。
「げっ!やばい!!ここでいいんだな?!」
渡された書類とペンをチラリと見、エドワードは書面も確認せずにペンを走らせた。
エドワードがペンを置くのを確認すると同時にロイは先ほどの封筒を差し出す。いつの間に押したのか、深い青の蝋印が押されていた。

「では気をつけて行っておいで。」
バタバタと廊下を駆ける音が響く。その騒々しい音を聞きながら、ロイは先ほどエドワードが署名した書類を見る。
よく見なければわからないが、その書類は何故かサインをする場所だけが別紙になっている。つまり、何かの紙の上に別紙を起き、必要箇所だけが見えるよう上の紙に穴を開けてあった。

ロイは伸長にその紙を二分すると、ニヤリと口の端を歪める。

「次に帰ってきて驚くといい。」


エドワードが先ほどのサインを激しく後悔するのは数ヵ月後。


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続ける気は全く無いのに続き物のようになった気がする…orz
これはあれです、結婚詐欺師とでもいいますか。。。慌しくて書面を確認せずにサインしたら、実は婚姻届でしたーみたいな。
サインは納得してからやりましょうの決定版。

…婚姻届って…二人が恋人かどうかも怪しいのに…orz ロイの一方的な片想いだったら超可哀想エド。
や、そんな事はないと思うけども。付き合ってるかどうかは別として、ちゃんとお互いに好きあってそう。

その昔め○ゃイケで似たようなことやってたのをふと思い出してペソペソやってみました。