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おでかけ
昨日は散々だった。例のごとく破天荒な幼馴染に振り回され、疲れきって自宅に戻ったのは空が白み始める頃だった。
おかげでぐっすり眠って、目が覚めたのは午後も遅い時間だった。寝過ぎてだるい身体を無理やり起こし、カーテンを開くと爽やかな青空が広がっている。こんな日は少し出かけるのもいい。思いついたそれに少し嬉しくなる。特に用事もないのだし出かけよう。
ふと幼馴染の顔が浮かんだ。もし彼に見つかれば、この計画は台無しだ。昨日の続きと称してあちこち連れまわされた揚句、碌でもないことに巻き込まれるに違いないのだ。
今日こそは絶対に相手なぞするものかと心に決め、思い切って携帯の電源を切った。もちろん個別の着信拒否設定は行っているが、誰かの携帯を借りて連絡を取ってくるとも限らない。
もし誰かが用事があって連絡を取ってきていたら、映画館に入っていたとでも言えばいい。そのまま電源を入れ忘れていたと。
軽くシャワーを浴びて服を着替える。
「ふふっ」
たくらみが酷く魅力的なものに思え、思わず鼻歌も零れるほどに楽しくなってきた。
そっと扉を開け外を伺うも、特に幼馴染の気配はない。そのまま素早く外に出ると、瞬は急いで駅へと向かった。
街をぶらぶらしていて目に入ったものを手に取る。別に買うでもないが、気になったものを手にとって感触を確かめると言うのは、存外楽しいものなのだ。
そうこうしているうち、いつの間にか街の外れに来ていた。閑散としたそこは、地価も安いのだろう。少し大きな公園が整備されていて、子どもたちの笑い声がそこここから聞こえる。
ベンチで少し休憩するのも悪くない。瞬はゆっくりと公園に向かった。
さすがに子どもたちが多くいるエリアで休憩するのは躊躇われ、奥へ奥へと進んでいく。
パコン、パコンと音が聞こえる。この公園はテニスコートまで完備しているのかと驚き、その音に釣られるように足はそちらを向いた。
果たしてテニスコートはあった。大学生と思われる男女が楽しそうにネットを挟んで対峙している。
しかし瞬の目はテニスコートを滑り、その隣に釘づけになった。
テニスコートの隣は、ストリートバスケ用のハーフコートがあり、そして。
ダムダムダム
重いゴム球がはずむ音がする。
ボールを支配している黒髪が動いた。
姿勢を低く保ち、正面から切り込む姿はさながら弾丸だ。
一瞬のフェイク。けれどそれで充分だった。弾丸の軌道にあっけなくだまされた相手は、ただその残像を見送るしかできない。
ふわりと地面を蹴った、次の瞬間にはボールは綺麗な弧を描きネットを目指している。
最早誰もその動きを止めることはできない。
パサ
何とも乾いた間抜けな音を立て、ボールがネットをくぐった。
黒髪が一瞬見せた心底嬉しそうな表情に気付いた者は自分のほかにいるだろうか。対峙していた相手は悔しそうにボールの行方を追うばかりだし、幾人かの観客は興奮しながら何か叫んでいる。
「ッ…!」
カッと熱くなる頬を自覚しつつも、その笑顔から目が離せない。
けれどその笑顔はすぐにいつものそれに変わってしまった。
「ばァっかじゃねぇえええの?俺様にィ勝とうなァんてな、百億万年早いっつぅううううううのッ!」
ぎゃははと笑う姿に、さっきのは見間違いかと目を擦ると、瞬は踵を返した。
派手な赤髪に気付いたのだろう。背後から何か叫んでいる声が聞こえる。
けれどそれを無視して歩を進めていく。
熱くなった頬を冷ますため、少し冷たい手でそこを抑えていると、盛大な足音が聞こえた。
どうかこの熱に気付かれませんようにと心の中で祈ったと同時に、瞬は清春に捕まった。
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