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初心者マークと保護者と保護者
マスタング大佐が歳の離れた相手と結婚したらしい。
そんな噂が、東部の中心地から遠く離れたこの地でまことしやかに囁かれていた。
女性が少しでも集まっている場所の傍を通れば、確実にその話題が上がっているし、ゴシップ雑誌の誌面もそのような記事で溢れていた。
「ったくよー何でこんな遠くまで来て大佐の噂聞かなきゃいけねぇんだよ。」
エドワードが不機嫌な様子でストローを噛みながら、手にしたゴシップ誌を睨みつける。
「何言ってんの、大佐だってそろそろ結婚してもおかしくはない歳でしょ?今まで結婚しなかったのがおかしいくらい女の人とはお付き合いだってしてるわけだしさ。」
アルフォンスは頭部を外して念入りに磨きながら、素っ気無く答える。それは彼にしては少々突き放した言い方だった。
その胸中は、だって誰かさんが照れまくって大佐に素っ気無い態度取ってたのが悪いんでしょ?と、これまで散々身内の不毛な恋愛相談に強制参加させられた憂さを晴らしている。
「うぅ…アルの裏切り者…」
机に突っ伏せ、エドワードが喉の奥から捻り出したような声で呟いた。
そんな兄を気にも留めずに、アルフォンスはしばし思案し、
「…でも、突然だよね。最後に大佐に会った時、別に何も言ってなかったのに…。」
うーんと考えるような仕草でポツリと呟く。
その言葉に先ほどまで机に臥せっていたエドワードがガバリと跳ね起き。
「だろ!?おかしいんだよ!昔の女が子ども突き出してきたり、どこぞの温室育ちの令嬢が勘違いしたりとか、そんくらいの理由だろ?」
何で上手く逃げ切れないんだよ、と、エドワードは不快感顕わにアルフォンスに文句を垂れる。
その反応の良さと、喰い付きのよさは恐らく自覚していないのだろう。アルフォンスはハァと小さく溜息を吐き。
「兄さん、それ実は大佐に凄い失礼な事言ってるって気付いてる?」
とりあえず兄の言動を嗜めれば、知るか、とエドワードは吐き捨てそのまま部屋を出て行った。
残されたアルフォンスはやれやれと溜息をつくばかり。
ボスン、とベッドに倒れこむ。
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
自分の体重で勢いが付きすぎたのか、エドワードはしたたかに顔面を打ちつけ、鼻を押さえて悶絶する。
鼻の奥がツンと痛んで、エドワードは涙が滲むのを、唇を噛む事で堪えた。
「あほタング。大佐のせいで鼻を打ったんだ。」
誰がどう考えても理不尽な文句を小さく垂れる。もちろん鼻を押さえながら。
「ばか、ろくでなし、無能の不能………………………好きだって言ったくせに…。」
エドワードは、言った自分の言葉にギャアと悲鳴を上げ、布団の中に潜り込んだ。
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エドワードとロイの関係はとてつもなく微妙だった。
上司と部下で同性同士で、親子というには近くて、けれども兄弟というには離れすぎた歳の差があって。
そして
「きみの事が好きなんだ。」
ロイの真摯な瞳を見る機会は少ない。その少ない機会の一度が、この言葉とともに訪れた。
エドワードは驚き、戸惑い、そして密かに喜んで。けれど、ロイの言葉に返事をすることなくその場から逃げ去った。
以来、ロイに対しどのような態度を取ればいいのかわからないエドワードは、ひたすらに司令部を避け。どうしても立ち寄る必要がある時は、滞在する時間がない事を態度で示して逃げ回っていた。
そして何ヶ月か経ち、逃げ回っていたツケがこんなところで回ってきたのだった。
ロイのあの日の言葉は確かに誠実で、疑う余地などどこにもない。けれど、彼は聖人ではないし、女性からの人気も高い。エドワードが逃げ回っているうちに、別の相手と出会い恋に落ちる事など容易に想像が付く。
自業自得の結果に、エドワードはただ自己嫌悪に陥るしかなかった。
コンコン、と軽いノックの後、アルフォンスが少し躊躇うような素振りで顔を覗かせた。
「………………。」
エドワードは何も発せず、ただベッドの中で丸くなっている。
けれど眠っているわけではないことは、人生の殆どの時間を兄と共有してきた弟にはよくわかった。
「…兄さん、明日ぐらいに司令部に行ってみようか。大佐の結婚が本当なら僕たちもお祝いをしなきゃいけないでしょ?」
兄心弟知らずと言ったところか。エドワードの心の動きに聡いはずのアルフォンスは、エドワードを追い詰めるような事をさらりと告げた。もちろん、言葉端に迷いや戸惑いが含まれてはいたが。
エドワードはその声を聞くと、ビクリと体を震わせて。
「…行かない。行きたくない。会いたくない。」
くぐもった声でぼそりと返す。
初めから予想していた回答だったのか、アルフォンスはその答えを全く意に介した様子もない。
「でもさ、僕たちとっても大佐にはお世話になってるよね?お祝いを言いに行くのは当たり前じゃないの?」
「旅してて知らなかったって事にすればいいだろ。」
「こんな辺鄙な田舎町までその話が来てるんだから、僕たちが知りませんでしたって言うのは結構無理があると思うけど?」
「〜〜〜〜第一これは噂だろ?噂だけでわざわざ司令部に出向く義理なんてねぇよ。」
アルフォンスの言葉をことごとく否定すると、エドワードはおやすみと短く告げて寝返りを打つ。
兄弟の会話はそこで終了だった。
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…続きます。
タイトルの意味は特にありません笑
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