初心者マークと保護者と保護者2



翌朝、エドワードは普段通りにアルフォンスに起こされ、普段通りに荷物をまとめた。
今日は次の町へ向けて出発する予定なのだ。
駅の改札前でエドワードはアルフォンスを待つ。もちろんその手には分厚い文献があり、一心不乱にそこの文字列を追っている。その姿はさながら二宮金次郎だ。
彼ら兄弟の間に自然に出来た役割分担の一つで、汽車の切符を購入するのはアルフォンスだ。
だから今日もエドワードは柱の影でトランクを椅子代わりにしてアルフォンスを待っている。

アルフォンスが鎧をガチャガチャと鳴らしながら小走りに帰ってきた。
「兄さーん!買ってきたよ!!後数分で発車しちゃうみたいだから、急がなきゃ!あとこれ、車内で食べてね。」
アルフォンスは切符とは別に紙袋をエドワードに渡す。
出来た弟は買い物に行く時間がない事をわかった上で、エドワードのためのお弁当まで買って来ていたのだった。
「お、おお!悪いな。じゃあ行くか。」
アルフォンスから切符を受け取り、二人はバタバタと改札を駆けて行った。


アルフォンスには大きな悩みがある。
もちろん兄の手足と自身の体についての事は最大級の悩みなのだが。それとは次元が違うところで、それと同等なほどの大きな悩みを実はその胸中に秘めていた。
それは。

「なぁアルぅ〜何で大佐ってあんなにモテるんだろうな…。」
エドワードは椅子に浅く腰掛け、遠くを見つめながらポソリと呟いた。
「へ?…それは女性の扱い方をちゃんと心得てるからでしょ?」
また始まった。錬金術馬鹿と思っていた兄貴の、不毛な恋愛相談。
アルフォンスは溜息をつきたくなるのをぐっと堪え、一番的確だと思われる回答を口にする。
好きなら好きでさっさとくっついてしまえばいいものを、折角向こうから告白してきたのにこの兄は逃げてしまったのだ。
その話を一晩中涙交じりに聞かされた時は、流石のアルフォンスも宿から追い出したくなったという。
そして、ここ数日の噂により、アルフォンスはいい加減堪忍袋の緒が切れそうだったのだ。

「だからさぁ〜大佐の事別に好きとか…」
「兄さん、話の腰を折って悪いけど…この本もう読んだ?」
アルフォンスは汽車が発車してしばらく経った頃、おもむろに一冊の本を取り出し、兄の言葉を遮る。エドワードは自分の話の腰を折られた事にむっとしつつも、アルフォンスの手元を一瞥した。
と、途端に彼の目の色が変わった。なぜならそれは、昨日アルフォンスが古書店で発見し手に入れた稀少本だったからだ。
「え、アル…何で?」
ワタワタと動揺しながら本をひったくると、エドワードは即座に本の世界の住人へとなったのだった。
…これで兄さんは駅に着くまで静かだ。
アルフォンスはそっと窓のカーテンを閉めると、やっと解放されたとばかりにほくそ笑み、別の文献を取り出し自身もその世界に浸ったのだった。


実はアルフォンスが用意した切符は本来の目的地へ向ってはいない。途中までは同じ道程なのだが、とある地点からは別の場所へ向って走るのだ。
そこは。

エドワードはアルフォンスに急かされ、アナウンスも聞かず降りた駅に愕然とした。
そこはよく知った、知りすぎた。イーストシティだったのだから。

「…アル、何で俺たちこんなトコにいるんだ?」
意味がわからないといった風にエドワードは、その大きな瞳を更に大きく開いてアルフォンスを凝視する。
「だってイーストシティ行きの汽車に乗ったもの。」
あっさりとエドワードの疑問に答えると、アルフォンスは彼の荷物をひょいと持ち。
「じゃあ兄さん、司令部に挨拶に行こうね。」
表情があるならば恐らく絶対零度の笑顔でエドワードに死刑宣告を告げたのだった。


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重い足を引き摺りつつというか、引き摺られつつエドワードは東方司令部の門前までやってきた。
もちろんその顔には盛大に『不機嫌です』と書いてある。
アルフォンスは散々嫌がる兄を荷物よろしく担ぎ上げると、駅から一直線に司令部を目指したのだった。
しかしあのエドワードが大人しく担がれているだけなわけはなく、途中で暴れまわった結果、脇の下をがっちりホールドされズルズルと引き摺られるようにしてここまで連れてこられたのだった。

「こんにちはーお久しぶりです。」
アルフォンスは、すっかり顔馴染みになった受付の女性に挨拶すると、無理やり兄のズボンから銀時計を引っ張り出して司令部内への立ち入り許可を求める。もちろん彼女たちがこの兄弟を止めるわけもなく、銀時計を見せたのは一応の体裁だ。
ほぼ顔パスで司令部に入ると、アルフォンスは馴染みの部屋へと足を向けた。

「なぁアルぅ…」
「だーめ。」
「頼むから…!一生のお願い!!」
「兄さんの一生のお願いは今まで何度も聞きました。」
取りつく島もない様子の弟に、エドワードはガクリと頭を垂れた。こうなったアルフォンスは頑として譲らないのは今までの経験上しっかりとわかっている。
元々弟に弱いエドワードが、アルフォンスに勝てるわけがなく。それでもどうにかロイの執務室に行かなくて済むように訴えてはみるものの、けんもほろろにあしらわれたのだった。
ちなみに二人が今話している場所は司令部の廊下である。エドワードの抵抗空しく、相変わらずズルズルと引き摺られ、目的地へと連行されていた。

コンコン
ロイの執務室の前まで来るとアルフォンスは控えめなノックをし、返事が返ったと同時にその扉を少しだけ開いて、その隙間から兄を部屋の中に放り込んだ。
パタンと扉を閉じると、アルフォンスはやっと片付けられたとばかりにスタスタとその場を去っていったのだった。