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初心者マークと保護者と保護者4
「そうとも。確かに私は結婚したさ。だがね…。」
そこで、ロイは突然話を変えた。
「ときに鋼の、先日きみに渡した紹介状は役に立ったかい?」
「え?!あ、あぁ…役に立った…けど…?」
以前エドワードは、とある貴族が所有する私立図書館へ行くための紹介状をロイに頼んだのだ。その時は時間もなく、懇ろに礼を言う間もなかったのだが。実際その紹介状のおかげで、思った以上の収穫を得る事が出来た。
不本意ではあるが、錬金術の基本が等価交換である以上、いつか礼をしなければと思っていたのだが。まさかこんなタイミングで引き合いに出されるとは思っていなかったエドワードは、完全に先ほどまでの勢いを削がれてしまった。
「それは良かった。あの時きみにサインしてもらった書類を覚えているかい?」
「…そんなもんあったっけ?」
「きみが覚えていないのも無理はないよ。だってあの時本当に時間がなくて慌しかったからね。」
「………?」
眉を顰めエドワードはロイの言葉に耳を傾ける。一体これから何が言われるのか。あまりに不自然な話の流れに、エドワードはロイを凝視した。
けれど、当のロイは至極楽しそうに笑っていて。
「鋼の、書面はきちんと確認しなければいけないよ。特にサインを求める形式のものはね。」
言いながら机まで歩いていき、執務机の引き出しから一枚の書類を取り出した。
「流石に現物は手元に残っていなくて、これはコピーなのだが。」
そう言って、エドワードの目の前に見せたものは。
「…なにこれ。」
「きみがサインをしてくれたものだよ。」
「…何の書類?」
「よく読んでみるといい。」
「……………………はっ!?」
エドワードはどこから出したのか、とてつもなく素っ頓狂な声を上げた。
その大きな目をこれでもかというほどに見開き、書類とロイを交互に見比べる。
「…どういうことだ………」
カラカラに乾いた喉からやっと搾り出した声は酷く掠れて聞き取るのもやっとなほど。
「おや?聡明なきみの頭脳ならそこに書かれている単語の意味など理解していると思っていたんだが。」
ロイはからかうように笑いながら言葉を続けた。
「まさか婚姻届という言葉の意味を知らないとは言わせないよ。」
ロイの口からその言葉が出た瞬間、まるで言葉が命を持ったかのようにエドワードの中で飛び跳ねる。
「ッ!!!!!!!!!」
意味がわからない。彼がやっている事の意味がわからない。けれどきっとこれは。
息も出来ないほど混乱したエドワードはしかし、その言葉は自分にとって嬉しいものである事だけ理解した。
ロイに渡された紙。
そこにはエドワード直筆のサインと、ロイのサインが書き込まれており。
その書面の見出しには『婚姻届』と記されていた。
つまり
これはどういう事なのか。
エドワードは震える声でロイに質問を。
「…俺男だけど。」
「知っているよ。法的に同姓婚は認められているから問題ない。」
「このサインは俺のものだけど…同意した覚えはない。」
「そこは謝るよ。きみが誰かのものになってしまうなんて考えただけで恐ろしかったんだ。」
「…プロポーズなんてされてない。」
「していないからね。だから…今からするよ。」
ロイは深呼吸を一つゆっくりとし、そのままエドワードを見つめた。
「エドワードきみを愛している。私と結婚してくれないか。」
声が上擦っていたかもしれない。心臓が口から出てきそうだ。体が情けないほど震える。
ロイはどんなに深呼吸しても落ち着かない自身を叱咤し、エドワードを見つめた。
15歳の少年が受け取るには重過ぎるロイの気持ちを、殆ど無理やり受け取ってしまったエドワードは俯いているため表情はわからない。
ギュッと何かに耐えるように握り締められた拳に居たたまれなくなる。
正直ロイは自信なんて皆無で。
告白した時だって心臓の音がエドワードに聞こえてしまうかもしれないと危惧するほどに緊張していた。
だから告白だけして逃げてしまった。エドワードを混乱させることをわかっていて、返事を求めない告白をしてしまった。
避けられるようになって張り裂けんばかりの心はいつ壊れてもおかしくないと思っていた。
こんなに苦しい思いをするのならいっそ…などと物騒な考えに走りかけた事もあった。
エドワードにサインさせた時もいつばれるか冷や汗をかいていたし、普段通りの態度で接する事が出来たか不安だった。
けれどそれよりもエドワードがいくら紹介状目的であったとしても自分のところへ来てくれた事が嬉しくて、大人という仮面の下で本当は舞い上がっていた。
今だって、エドワードにしてみれば狡猾な大人の策略に嵌って、掌で転がされているように感じるかもしれないが、そんなものはポーズだけ。本当は今すぐにでも逃げ出したくなる自分を叱咤しているのだ。
どれくらい時間が過ぎたのだろうか。長かったような気もするし、一瞬だったような気もする。
俯いていたエドワードがゆっくりと頭を上げた。
その目は何かの意思に満ちていて、心が決まった事を何よりも雄弁に物語っている。
強い焔を湛えたその目がロイのそれを真っ直ぐに射る。
「俺………大佐が多分好きなんだと思う…………大佐が結婚するかもって聞いて毎日泣いてた。アルに愛想つかれるくらいに毎日あんたの記事探してた。」
ゆっくり語られるそれ。
「だからあんたにちゃんと言われて凄い嬉しい。」
一言一言を噛み締めるように。
「…だけど俺たちはしなきゃいけない事がある。あんたにもすべき事がある。」
そうだね、と同意するようにロイは頷いた。
ロイの動きをしっかりと見つめ、エドワードは続ける。
「大佐の事本当に好きなのか…いや、大佐を好きなのはきっと間違いないんだけど…結婚してもいいって思っているのかはまだ自信なくて。」
それはそうだろう。自分は告白しプロポーズまでしたが、その前の恋人という段階を経ていないのだから。
「だから、だから…俺たちが目的を達成して、大佐…ロイが大総統になるまで…待ってくれないかな。」
エドワードの言葉が少し強くなる。
「俺、それまでにちゃんと考えて答えだすから。もう逃げないから。…だから…」
そこから先は言葉を紡ぐことが出来なかった。ロイがエドワードに口付けたためだ。
「待ってる…待っているから、きみが私を選んでくれるまで待っているから、だから今だけ…口約束を契約にするために、きみの口付けを…。」
この気持ちを抑える事は不可能だった。エドワードも自分を好きでいてくれていると言ってくれたのだから。自分のしかも名前を呼んで。
唇を食むだけの少し中途半端な口付けではあるけれど、今のロイにはそれだけで十分だった。
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結婚できる年齢は考えないであげてください。
ここまで書いて、最初から読み返して婚姻年齢に気付いたバカですorz
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