|
アルフォンスと愉快な兄貴
僕はもう、驚く事に疲れてしまったのかもしれません。
一歳だけ歳が上の兄さんによって起こされる様々な騒動を、生まれたときから見てきたから。それらに一々驚いていたのは、きっと義務教育を終えるくらいまで。
高校生になって、思春期真っ盛りの僕は。ほら、これくらいの歳の男の子なら皆憧れるじゃない、冷めててカッコイイ、そんな男を目指してるからさ。だから兄さんがどんな事になっても驚かないぞって思ってたのに。というか、驚く事に慣れてしまって、ちょっとやそっとじゃ驚かなくなったのが本音だったりするんだけれど。
ともかく。僕はよっぽどの事じゃ驚く事なんてないんです。
なのに、兄さんはあまりにもあっさりと、あっけなく、僕を驚かせてくれやがったよ。しかも多分これ以上ない動揺を誘うくらいのネタを手土産に。
「ただいまー。アル?いるのか?」
ガチャガチャと鍵を回す音がして、聞きなれた兄さんの声が廊下に響いた。
「…突然どうしたの?帰ってくるなら連絡くらい入れてよね。」
僕は今受験生。兄さんは一足先に大学生。
学費免除に釣られて、多分この国でもトップクラスの大学にトップの成績で入学。
一人暮らしで研究室通いの日々だと以前言っていた。そして休みなんて殆どないんだ、とも。
そんな兄さんがどうしてこんな平日の夕方に?突然の大好きな兄さんの訪問に喜びつつ、僕は疑問を持った。
「あー、いや、うん。アル、俺さ…」
珍しく歯切れの悪い兄さんに僕は少し驚く。とにかく玄関先でグダグダされてはたまらないと、僕は声を掛けようとした。
「にいさ…」
「エド、こんなところで立ち止まっていてはいけないだろう?とりあえず用件は落ち着いてからにしよう。」
…ん?落ち着いた大人の男の人の声?てゆか、エドって呼び捨て?
眉を寄せた時、玄関の影に隠で見えなかったその人がこっちを向いた。
「……………えっと?」
「あ、とりあえず上がるぜ。話はそれからだ。」
家に上げるなとは言わないけれどさ、見知らずの男の人がいて紹介もなしなんてさすが兄さんだね。
僕のそんな微妙な心境を読み取ったのだろう。
「あぁ…自己紹介が遅れてすまないね。ロイ・マスタングと言うものだ。エドワードの研究室の担当教授だよ。」
大学の先生が直々に尋ねてくるなんて、兄さんあんた一体何をやらかしたんですか。
とりあえず。
3個並んだコーヒーカップと、受験勉強のお供にしていたいくつかの菓子類。
急場でこれだけ用意できる僕って将来立派な主夫になれると思うんだけど。
「……………えっと?」
さっきと同じセリフを繰り返す。まぁこれは、とりあえず自分を落ち着けるために言った、あまり意味の無い言葉なのだけれど。
そう、自分を落ち着けなければいけないほど、僕は混乱していた。
だって。
「あ、これ美味い。ロイも食ってみろよ。はいあーん。」
「…!本当に美味しいね。あぁほら口の周りにお菓子をいっぱい付けて仕方ないなぁ。」
…………。
すいません。ここ一応僕の家なんですけど。何で見知らずのおじさんと、自分の兄が目の前でいちゃついてるの?え、説明とか何もなし?これで察しろとそういう事なの?ねぇ兄さん!!!
僕が何かもう人生とか人生とか人生に絶望してしまったのに気付いたのか気付いていないのか、兄さんがやっとこっちの世界に戻ってきた。
そしてかけられた言葉はまさに。
「あ、ごめん。えっとアル…俺さ、大学辞める事にした。」
青天の霹靂。
「それで、えっと…こいつの…こいつのところで……………。」
ごめん兄さん、肝心なところを言葉にして説明してくれるかな?顔真っ赤にして俯かれても、こっちは察するなんてそんな大人な対応できるわけがないじゃない。だって、他の人たちに比べたら相当頭が良くてルックスにもかなりの自信があるけどさ、それでも至極普通の受験生なんだよね、僕。
僕の心の声に気付いたのか、マスタングさんが困ったように笑って僕を見た。僕さ、ポーカーフェイスって得意中の得意なはずなんだけど。それを見抜くなんてあのおっさんただのおっさんじゃないね、油断ならない。
「ほら、エド…ちゃんと言わなきゃ…アルフォンス君だって困っているよ?」
「ッ………」
「兄さん?」
「あのさ、アル、こいつ俺の………恋人だから。」
や、うん、そんな顔真っ赤にして言わなくても、そりゃあもう吐き気のするほどにあんたらのバカップル振りはしっかりと見せてもらいましたから、よっく知ってるよ。
何て大きな本音は笑顔で隠して。あぁ僕ってなんでこんなにブラコンなんだろうorz
「へぇ、そうなんだ…兄さんってゲイだったっけ?」
とりあえずそこは重要。
「はぁ?んなわけねぇだろ。」
即答ですか。
「だよね、僕も知ってる。兄さん今まで何人の女の子と付き合ってきたっけって思わず数えちゃったよ。20人くらい?」
「ばっ!おまっ!アル!!!!ロイの前で!!!」
「ほぉエドはやはり人気があるんだね。ではエドを手に入れることが出来た私は本当に幸運なんだな。」
まぁ当たり前の結果だがな、なんて思ってそうな口ぶりでマスタングさんが言った。あぁこいつウゼェ。
「で、結局何の用事なの?僕に恋人を紹介してくれるためだけに来たんじゃないでしょ?てゆか話しずれてる。大学を辞めるって話から何で恋人紹介になるかなぁ。」
ちょっと意地悪な口調になっちゃうのは仕方ないよね。だって無限に広がる宇宙のように広い心の持ち主の僕だってイライラしちゃうよ、こんなバカップルが目の前に居たら。
「あ…うん…ごめん…。えっと、俺大学辞めて、こいつのトコに行くことにしたんだ。」
「…?だってマスタングさんって大学の先生でしょ?研究室に入るなら別に学生のままでも…」
「や、そうじゃなくて…えっと…な。」
兄さんがすごく言いにくそうにしてる。何だか僕さ、絶対考えたくない想像しちゃったんだけど…まさかそれじゃないよね?!
「そうじゃなくて?じゃあどういう事?」
僕はうっかり興奮しちゃって、兄さんに詰め寄ってしまった。
「アルフォンス君…私から説明しよう。」
「ロイッ!!!」
「エド…大丈夫だ。私に任せてくれないか?」
「ロイ…ッ!」
………はっきり言ってうざいんですが。あーもう僕、兄さんが大学辞めるとかどうでもよくなってきたよ。
僕兄さんの決めた事に反対も賛成もしないからさ、さっさと帰ってくれないかなぁ…。
とりあえず僕って今とってもナイーブな受験生なんだけどな。
やっと二人の世界から帰ってきたらしい。マスタングさんが僕に向き直った。
「アルフォンス君、私にエドワードをくれないか。」
「……………………………は?」
二人とも至極真面目な顔してるし、兄さんに至っては何だかうっすら頬染めてるし。
えっと、今言われた事を常識的に考えたらさ、え、え、え?ちょっと待って、はかったことないけど多分ものすごく知能指数が高いはずの僕の脳がフリーズしたよ。
え、あの人が言ってる意味が理解できない。僕のパニックが伝わっているのだろう、マスタングさんは先を続けたそうにしていたけれど、黙って僕のほうを見ていた。あぁ、今日初めてこの人がいい人に見えてきた。けれど、そんなマスタングさんの気遣いも空しく、
「あのな………俺の腹の中にコイツの子どもがいるんだ。」
パニック状態の僕に、兄さんはトドメをさしてくれました。
「は!?だって兄さん男でしょ!!?インターセックスとかジェンダーとか色々問題ある昨今だからあんまり男女がどうこうとか言いたくないけどさ、けどさ、一応兄さんはれっきとした心も体も雄だよね!?」
あまりの動揺に僕は一息でまくし立ててしまった。ハッと我に返ると、兄さんとマスタングさんがどこか困ったように苦笑していて、僕は何だかちょっと居たたまれなくなって俯いた。
「あのな、アル…」
そんな僕に、兄さんが優しく声をかける。タイミングの良さに、兄さん…ってちょっとジーンとしてしまった僕は、続けて掛けられた言葉に固まるしかなかった。
「俺、実は女だったんだ…」
「ッ!!!!」
ガバリと起き上がったそこは見慣れた部屋で。僕は先ほどまで見ていたのが夢だと知った。
「よかったぁ…」
兄さんに男の恋人が出来たなんて話は聞いていないし、あんな夢を見たのはウィンリーが無理やり見せてきたホモ同人誌のせいだ。うん、そうに違いない。
僕は、無理やり自分にアレは夢だと言い聞かせて二度寝することにした。
アルフォンスの家のベルが鳴らされるまであと数時間。
<<あとがき>>
ファイル整理してたら途中まで書いてたのを発掘したので、残りを(無理やり)書き足して完成させてみました。
軽くコメディを意識したらしい昔の自分に、若さを感じましたorz
|