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BFF 〜 Best Friends Forever 〜 中
次の日曜、いささか緊張した面持ちで黒羽が現れた。
まあ俺の友人たちが一同に介するホームパーティーで紹介するから準備して来いなんて言われたら緊張もするかもしれない。
何だか大量の荷物を持っているようだが、マジックの道具なのだろうか。
「よお工藤。ちょっとコレ置かせて。つか準備の時間少しだけくれ」
「30分くらいしかねえけど、そこの部屋使え。俺はコーヒーでも淹れてる」
のんびりとコーヒーを淹れながら、俺は黒羽に与えた部屋を見つめた。大慌てで準備しているのだろう。時折ガチャガチャと物がぶつかる音が聞こえてくる。
かなり興味があるが、マジシャンの舞台裏を見るのはルール違反だ。
淹れたてのマグカップを二つ持って、俺は扉を足で蹴った。行儀が悪いなんて今更だ。
「おい黒羽。コーヒー飲むか?」
「あー…あー…う、後から飲むから置いといてくれ!」
「バーロ。冷めたコーヒーなんざまずいだけだろ」
「今手ぇ離せねぇんだ」
「ならコーヒーは諦めろ」
それだけ言って俺はキッチンに戻った。折角人が淹れてやったってのにと少しだけ理不尽に思う。
ブチブチと文句を言いながらも、半分ほどコーヒーを飲み終えたところで、黒羽が姿を現した。
「ひと段落したーまだコーヒー残ってる?」
「そこ。ただし冷めてても知らん」
「さんきゅ」
少し温んだコーヒーを、それでも黒羽が美味そうに飲み干したのを確認したところで、俺は椅子から立ち上がった。
「じゃ、行くか」
「いらっしゃい」
「よお灰原。アイツらは?」
「博士のゲームで遊んでるわ。…それよりその人…」
「初めまして!灰原さん?工藤の友人の黒羽快斗です!」
「…初めまして」
「友人というところにはまだ同意しかねるが、まあ、俺の連れだ。一応これでも腕の立つマジシャンだし、アイツらの遊び相手にはちょうどいいだろ」
「そう…。ええと黒羽さん?奥に子どもたちがいるから、料理の準備できるまで相手してもらえないかしら」
「了解!灰原さんは?」
「私はキッチンで料理を手伝うの。子どもたち、よろしくね」
***
「おにーさん誰?」
「俺は魔法使いの黒羽快斗。よろしくな!」
挨拶代わりにポンポンとキャンディーを子どもたちの手の中に落としていく。これで掴みはばっちりだ。
「うわあ!すごーい!」
子どもたちの歓声をBGMに、俺たちはキッチンで忙しく動いていた。
「彼、大人気じゃない」
「アイツらには本物の魔法使いに見えてるんだろうな」
「でもどういう了見?彼って…」
「んー暇つぶし?」
「暇つぶしであなたが見知らぬ誰かを家にあげるなんてあり得ないわ」
灰原の淡々とした口調は、それでもかなり不審がっているのがわかる。
そんなこと言ったってなあ。俺だってアイツの真意なんざ知らねえし。
そうこうしているうちに、玄関が鳴った。
「おじゃましまーす」
「よお、蘭。あれ?園子と服部は?」
「忘れ物したとかでコンビニ駆けてっちゃった。私はほら、生ものもあるし、先に来たんだけど…」
蘭から買い物袋を受け取り、キッチンへ案内する。ついでにリビングで騒いでいる黒羽を紹介した。
「蘭、あそこでマジックやってるのが、黒羽快斗。おい、黒羽。俺の幼馴染の毛利蘭だ」
「黒羽君?初めまして。毛利蘭です」
「こちらこそ初めまして!よろしくね毛利さん!」
「わ!すごーい!」
子どもたちにはキャンディーだったが、蘭にはバラの花を差し出している。おいこら、蘭を口説くな。
そんで蘭も頬を染めるな頬を!
何だか面白くなくてさっさとキッチンに引っ込んだら、そこで灰原に捕まった。
「何自分のおもちゃ取られて悔しい子どもみたいな顔してるの…」
「別に。つか蘭ももうちょっとガードしろっての」
「あら、あなた、黒羽君じゃなくて蘭さんに妬いてると思ってたのに…ふふ」
「何で俺が蘭に妬く必要があるんだっつーの逆だろ逆」
「まあそういうことにしといてあげるわ。さて、メインも届いたし。さっさと準備終わらせちゃいましょう」
挨拶も一通り終わったのか、蘭もキッチンに顔を出して。俺は不承不承ながらも皿やグラスの準備を始めた。
「さて、と。あとは服部と園子だな」
セッティングを完璧にしたところで、ポツリと呟けばタイミングよくインターフォンが鳴った。
「くどー来たでー!」
さあ、パーティーの始まりだ。
***
今回のパーティー実は子どもたちの進級祝いだったりする。なので黒羽には子どもたちを祝うためのマジックを用意させた。
つまり客ではなく、ホスト側としてマジシャンとしての振る舞いを期待されているのだ。
「改めまして、マジシャンの黒羽快斗です。皆、進級おめでとう!」
ポンポンと小さな破裂音と共に子どもたちの手ににプレゼントが現れた。
「うわあ!快斗お兄さんありがとう!」
「すっげー!快斗兄ちゃんって本物の魔法使いなのか!?」
「違いますよ元太君…快斗お兄さんはマジシャンです」
ちなみに会話に参加はしていないが、灰原にももちろんプレゼントが渡されている。
「よしよし、じゃあ乾杯するか!」
「乾杯!!」
声を合図に、カチンと小気味よい音が辺りを満たした。
「ねね、黒羽君ってあの黒羽君よね?」
「え?」
「江古田で超有名人の黒羽快斗!幼馴染の女の子との夫婦漫才もだけど、マジックとルックスで他校にまでファンがたっくさんいるっていう!」
「園子オメー…」
「てゆか知らないほうがおかしいって!何で新一君と知り合いなの!?つかなんで新一君は黙ってたのよ!!蘭は知ってた?」
「うーん私も今日会ったばっかりだし…ねえ新一、いつからの知り合いなの?」
「えっと…こないだ?」
何が不満なのか、蘭も園子も俺の答えに目を丸くしている。
「ってことは服部君も知らないよね?」
「オレも今日が初対面や」
「俺がどうしても新一と友達になりたくてこないだアタックしたんだ」
「えええ!何で!?こんな推理とホームズオタクとお友達!?」
「園子テメエ…」
「はは…確かにホームズカルトテストはやばかった…」
黒羽の言葉に、服部の顔が若干引きつった。あれぐれーホームズ好きなら普通だっつの。
つかおかしい。なんで俺が攻められてンだよ。
唇を尖らせていると、服の裾を引っ張られた。
「はいはいそこまで。工藤君、お皿運んで頂戴」
メインの皿を出した瞬間、それまで笑顔だった黒羽が固まった。他のやつらは皿に目が釘付けで気付いていないが、俺だけは気付いてしまった。皿を一瞬見た瞬間顔色をなくし、…震えている?
「………」
「黒羽…?」
「ちょ、わり…俺トイレ…」
「お、おう…?」
フラフラと部屋を出て行った黒羽に、服部も気付いたらしい。もぐもぐと口を動かしながらやってきた。
「何や黒羽のヤツ?はよおせんと無くなってまうで」
皿の上にはキラキラ輝く鮮度の高い刺身が、私を食べて!と誘っていた。
刺身がなくなった頃、薄っすら涙目で戻ってきた黒羽を隣室に引っ張っていった。
「…何オメー魚食べられねえの?」
「つか…その単語聞くことすら嫌だ…」
「情けねえやつ…つかアレ、蘭がわざわざいいやつ見繕ってきたのに。蘭のヤツ、黒羽君食べないのかなあつってたぞ」
「うわー…ごめん…でも無理…」
「はあ…まあいい、気分がよくなったら戻って来い」
大きく肩を落としている黒羽を残して、俺は会場となっているリビングに戻った。
***
自宅に戻りソファーに座ってコーヒーを飲む。
目の前には項垂れた黒羽。正直ちょっと…いやかなりうぜえ。
「……」
捨てられた犬みたいな目で時折俺を窺ってくるのがまた。悪いが俺は情に流されるタイプじゃねえんだよ。
コーヒーをグイと飲み干すと、俺は黒羽を呼んだ。
「俺さあ、アレ割と好きなんだよな」
「ッ…」
何故そこで顔を青ざめさせる。いや、まあそういう風にしたのは俺か。
「結構な頻度で食べに行くし、家でも食べるし?」
俺の言葉一つ一つにビクビク反応している黒羽が面白い。
「でもまあ、食いモンの好みなんて人それぞれだしな…それにオメーは今日、子どもたちを楽しませた。」
「…」
「つーわけで、今から黒羽は俺の友人な」
ニヤリと笑った俺と対照的に、黒羽の気の抜けた顔が可笑しかった。
さて、次は最終テストか。
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