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Paper Gangsta 1
ボンゴレ内にある綱吉の自室の奥には、もうひとつの部屋がある。隠し扉と厳重なパスワードで守られたそこの存在を知るのは、綱吉と限られた数人だけである。だからと言ってその部屋に金銀財宝があるわけでも、ボンゴレを内部から揺るがすようなとんでもない何かがあるわけでもない。そこは並盛の実家を再現した、綱吉の完全なるプライベートルームである。
日本で発売された大好きなゲームの続編に最新のゲーム機器、わざわざ日本から取り寄せている各種週刊マンガ雑誌に単行本の類、ボンゴレ十代目でありはするけれど、平凡な日本人沢田綱吉を捨てたわけではない。綱吉は、この部屋の中だけはボンゴレというしがらみを全て捨てて、素の自分に戻ることを許している。その意味で、この部屋に入れるのは綱吉と、並盛町で関係があった人物たちのみである。と言っても、綱吉が呼ばなければこの部屋に誰かが入ってくることはない。掃除すら綱吉本人で行っている徹底ぶりだ。その分汚いという指摘も、守護者の面々から受けることがあったりするのだが。
つまるところこの部屋に本当に自由に出入りするのは綱吉と、綱吉に対して遠慮というものを知らない家庭教師ぐらいのものである。
勝手知ったるパスワードでもって扉を開くと、僅かに漂っている臭いにリボーンは思わず顔を顰めた。ダメツナが、と心の中で罵りながら主がいるであろう部屋へと進む。並盛の家をほぼそのまま再現した間取りだが、構造上、二階部分も同フロア内に設けられている。目指すは綱吉の部屋だ。
「何してやがる。ダメツナ。」
「…何、って…ナニ?」
果たして扉の奥に目的の人物はいた。リボーンに背中を向け、顔だけで振り返って呆けている様は、本当に巨大マフィアのボスかと疑うほど幼い。その幼さに反するかのように、綱吉の周りには丸まったティッシュが幾つも転がっている。そして部屋に漂う独特の臭い。とどめのように、背中を向けた綱吉は下半身に何もまとっていなかった。何をしていたかなんて、聞かなくてもわかる。
「…さっさとンなもんしまえ」
地を這うほどに低い声で、不機嫌を隠しもしないで言うと、綱吉は盛大に溜息を吐いた。わざとらしく肩を竦める姿に苛立ちを覚え、リボーンは視線をそらした。一方の綱吉はというと、己の秘戯を家庭教師に見られたというのに、動揺するでもなくどこか楽しそうに目を細めた。
「俺の部屋に勝手に入ってきてそれは横暴すぎねえ?」
「見られたいのかお前は。」
「別に見られて喜ぶ趣味はないけど…リボーンが興味持ってくれるなら、見せてもいいよ。」
明らかに挑発的な視線と物言いだった。無言で愛銃を取り出し綱吉に向けると、幼いころからの教育の賜物か、慌てて両手を上げて降参の意を示したのだった。
「報告は向こうでする。終わったら呼べ。」
「りょーかい。」
踵を返したリボーンの背中を、綱吉は切なそうに見つめた。
綱吉が己の家庭教師を意識したのは、彼の呪いが解けてしばらくしてのことだった。赤ん坊サイズから、突然大人に成長したリボーンに戸惑い、接し方を模索するうち自分の気持ちに気付いたのである。よもや自分が同性を好きになってしまう事態になるとは想定すらしていなかった綱吉は、芽生えた気持ちを必死で隠した。同性を好きになってしまったという事実と、それ以上にリボーンに嫌われたくない一心だった。
けれども敏い家庭教師相手に隠し通せるものではない。リボーン本来の姿に誰もが驚かなくなった頃、綱吉の気持ちを白状させられた。綱吉にとって一世一代の告白は、二人の関係を大きく変えるものとなった。最悪なことに、悪い方へ。
綱吉の気持ちを知った上で白状させたリボーンは、それでもその想いを受け取ることはできないと告げたのである。生徒としてしか見ることができない、それ以上に家族に手は出せない、と。
リボーンは自身に与えられた部屋に戻ると、ソファに倒れこんだ。目を閉じれば先ほどの場面が何度も蘇る。興奮で蒸気した頬、半開きの唇。うるんだ瞳は綱吉の欲を如実に伝えていた。
「チッ…。」
熱くなる半身に舌打ちすると、リボーンはスラックスの前を緩めた。
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