Paper Gangsta 2



 それに気付いた時、リボーンは歓喜に震えた。愛してやまない自分の教え子が、自分に対して欲をはらんだ瞳で見ているのだ。気付かないふりをして愛人と会ってくると伝えれば、リボーンにしかわからないほどの僅かな嫉妬が、ボスの仮面の奥から覗いている。自分も同じ気持ちだと伝えたかった。伝えて、綱吉を己のものにしてしまいたい。
 けれど、リボーンは綱吉の気持ちに応えることも、自分の気持ちを伝えることもできないのだ。ボンゴレの十代目になるべく育てた生徒は、今では立派にその座を継いでいる。ボンゴレと血縁はあれど、東洋人というだけで内外の反発は大きかった。それをどうにか抑え、今ようやくファミリーがまとまりつつあるのだ。もし綱吉が、リボーンと想いを通わせたと漏れてしまえば、どこからか新たな反発が生じる可能性も否定できない。下手をするとボンゴレ十代目が、最強のヒットマンを手篭めにするために身体を使ったなどと、下世話な憶測が飛ぶ可能性さえあるのだ。いや、既に下世話な憶測は幾つも転がっている。けれどそれらは根も葉もない噂でしかなく、現時点で綱吉の弱点にはなり得ない。だが、噂が現実になってしまったとすれば話は変わってくる。例え僅かな可能性だとしても、反発が生じる恐れのあるものは排除したかった。リボーンは綱吉を諦め、綱吉はリボーンを諦めるよう仕向けることで、彼を守ろうとしたのである。

 綱吉にとって最悪だったのは、間違いなく、気持ちを白状させられたことであろう。気の迷いだと、勘違いしているだけだと何度も自分に言い聞かせた気持ちはしかし、自分で否定することもできなくなるほどに強くなっていた。綱吉の家庭教師として長年連れ添ったリボーンがその気持ちに気付かないわけがなかったのだ。
「ツナ、お前俺に隠しごとしてねえか。」
「…隠しごとって?えっと…お前に言わなきゃいけないことって何かあったっけ…。」
久々に二人の仕事が早く終わった日、夕食を共にしていた時のことだった。最近できたという日本食のレストランに行ってみないかと声をかけたのはリボーンからで。それを綱吉が断る筈もない。護衛はリボーンが兼ねてくれるからと、二人で暖簾をくぐった。
通された和室の小ぢんまりとした部屋で、出された料理に舌鼓を打っていると、リボーンは真剣な顔で綱吉に尋ねたのである。いつになくピリピリと緊張感を伝える空気に、綱吉も真剣にリボーンと向き合うべく箸を置いた。
「…隠しごとの一つや二つ、ない方がおかしいと思うんだけど。」
「隠したいなら、一切表情に出さないようにするんだな。」
「多分リボーンくらいだよ、俺の内面に気付くヤツなんて。」
苦笑いしながら言うと、リボーンは片眉を上げて首を振った。
「お前の愛人たちが嘆いていたぞ。最近のツナヨシはどこか気もそぞろだとな。」
「女の人ってなんであんなに敏いんだろうね。女の勘ってバカにできないなあ。」
綱吉が溜息とともに力なく笑うと、リボーンは家庭教師の顔で、だからダメツナ何だと言って笑った。
「で、お前の隠しごととやらを聞いてやるって言ってるんだ。言ってみろ。」
「…言うつもりは無いって言ったら?」
「無理にでも言わせる。」
「…どれだけ俺様なんだよお前…。」
向けられた拳銃を手で押し下げると、リボーンは素直に元に戻し、綱吉の目を見つめた。誤魔化すための言葉はいくつも浮かんだ。けれど綱吉の口から出たのは、秘めたる想いだった。
「好きだよ、リボーン。お前のことを愛してる。」
「フン、直球で来るとは、ダメツナにしちゃあ上出来だな。」
「はははお褒め頂き光栄です。」
「だが、ツナ、俺はお前のことを生徒と…いいとこ家族以上に見ることはできない。」
「…そっか。」
「ああ、悪いな。諦めろ。」

 諦めろと伝えたのはリボーンだが、告白させたのもリボーンだった。その矛盾は、リボーン自身が綱吉を諦めきれないことに起因している。どんなに望んだって自分のものにならないのならば、せめて好きだと聞きたかった。綱吉の口から、綱吉の言葉で、リボーンが好きだと聞きたかったのだ。自分のエゴが綱吉を酷く傷つけるのは知っている。それでもリボーンは綱吉の気持ちを聞きたかった。

 リボーンのエゴは、予想に違わず綱吉を酷く傷つけた。食事の最中は努めて平常を装っていた綱吉だが、ボンゴレ本部に設けられた自室の前でリボーンと別れ、部屋の扉を閉めた途端、その場に崩れ落ちたのである。
 もちろん綱吉だってこの気持ちが成就するとは思ってもみなかった。だからこそ自分の胸の内の中だけで大切に温め、いつの日か良い思い出だったと笑える時が来ることを期待していたのだ。それを無理やり暴かれ、その上で気持ちを拒否されてしまった。組織におけるリボーンの重要性を認識しているだけに、彼を避けることも、自身の態度も変えることもできない。翌日からの日々を思うと、苦しくて、けれど泣くこともできず、綱吉はただ湧き上がる苦しみを堪えるしかなった。




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